vol.07 海の民具ー籠・うけで漁るー

文: 加藤幸治(民俗学者・武蔵野美術大学 教授) / 写真提供: 武蔵野美術大学 美術館・図書館 民俗資料室(撮影=宮下晃久) / イラスト: 廣﨑遼太朗

海のMING GANGのキービジュアル

「うみは広いな、大きいな……」海と人の長い関わりの中で育まれた、恵みを得るための技や知恵(=民具)と、海に対して人々が抱いてきた大漁への願い(=玩具)を武蔵野美術大学 美術館・図書館 民俗資料室が所蔵する約9万点に及ぶ民俗資料コレクションから発掘。民具と玩具、それぞれの展示室を用意し、同大学教授の加藤幸治さんの解説で、いにしえから今へと続く人と海とのつながりの深さに触れる連載(企画詳細はこちら)。第7回目は「籠・筌(うけ)で漁る」をテーマに海の民具を紹介します。

入ったら出られない筌

海や川で獲物をとるための竹籠を総じて筌(うけ)と呼びます。地域によってはモンドリ、ド、ドウ、モジ、ウエなどさまざまな名称があります。モンドリは「戻り」のなまりで、竹籠の入り口に装着されている、「返し」や「戻り」と呼ばれる、一度入ったら出られない構造からきています。

筌は、魚やエビ・カニなどがいそうな場所や、泳いできそうな場所に仕掛けて誘い込みます。こうした漁法を罠におとしいれることから陥穽漁(かんせいりょう)と言います。そのため、それが罠だと気付かれないように仕掛けることが何より大事で、潮のリズムや水流に合わせる知恵や、周囲の環境に溶け込ませる技が求められます。

仕掛けた後は、待つしかありません。その成否は、籠を水中から引き上げてみるまでわかりません。籠で漁る筌は、獲物の生態と深く関わっているため、自然を観察する眼と、経験がものをいう、名人芸の世界ともいえます。

海の筌

海に仕掛ける筌には、例えばアナゴを獲るための筒型の竹籠があります。筌を延縄(はえなわ)のように綱に一定間隔で装着して海に沈めます。宮城県の牡鹿半島の仙台湾側では、アナゴを獲る伝統的な竹籠の筌があり、同じようにいくつもつないで海に沈めます。現在ではプラスチック製の筌が普及しています。一方、カワハギやアオリイカ、コウイカなどを獲るための、つりがね型の籠筌もあります。

潮流の緩慢など、海の力を借りて獲物を招き入れる筌は、もちろん空振りの日もありますが、一網打尽にするのではなく海が与える分だけを受け取るという考え方が根底にあります。

深海の筌

深海に生息するタカアシガニ漁は、船で網を曳く底曳網(トロール漁)や網にからめて獲る底刺し網のほか、エサを入れたかごを海底に沈めて誘い込み、閉じ込めるカゴ漁があります。千葉県犬吠埼や、九州南岸の太平洋側、駿河湾などの水深200〜400mの深海では、袋状の網がついたカニ籠を仕掛け、そこに生息するタカアシガニを誘い込んで捕獲します。これも中に餌を入れておびき寄せ、中に入ったら出られないという意味では、籠で漁るもののひとつと言えます。

淡水の筌

川の筌には、アユやウグイなどの魚からモクズガニを獲るものなど、バリエーションがあります。いずれも魚の通り道や流れの比較的穏やかな場所などに仕掛け、中に入れた餌におびき寄せられて入ってしまうのです。筌には、手で運べるものから、人がそのまま入れてしまうような設備と言っていいような筌までさまざまあります。また、水田や水路でもウナギやドジョウを狙った筌が使われました。

滋賀県の琵琶湖には、タツベと呼ぶ丸い円筒形の特徴ある筌があります。これは淡水のスジエビや、湖岸のヨシや水草に産卵にくるコイやフナといった魚を捕まえるためのもので、数百個も縄につないで延縄のようにして用います。現在はプラスチック製の全く同じ形の道具が使われています。

砲弾型の筌

川魚を獲るための筌の返しの部分は入り口がすぼまっており、魚は前に前にと進んでいくと籠の中に入ってしまいます。砲弾型のなだらかな曲線は、水流の抵抗を減らす工夫でもあります。筌の胴は、同じ太さの竹ひごを規則正しく並べて、すだれのように編み込んで作られています。

 筌 福島県会津若松市 KT000499

一体型の筌

砲弾のような曲線で作られている筌は、「返し」を別部品で作って装着するのではなく、筌の胴部から「返し」までを連続的に編んで作っています。この筌はドジョウを獲るためのもので、出口のところには布をかけて紐で縛るなどして逃げられないようにしました。

 筌 新潟県北蒲原郡水原町 KT000455

家型?の筌

高知県には、まるで竹籠の家のような形の筌が見られます。これは底と蓋は木製で、魚籠(びく)のような形の竹籠の底に入り口があります。入り口には斜めに竹ひごが並んでいるなどして、中に入った魚は出ることができません。非常に存在感のある筌ですが、名人は、獲物が部屋に入ったことすら気づかないうちに捕獲してしまうような仕掛け方を工夫するのです。

 筌 高知県高岡郡東津野村 KT001394

細長い筌

水田や水路などで使用するウナギ用の筌は、水田の泥に沈めて竹の油分を抜くなどしてできるだけ道具だとバレないような工夫がされました。両端に三角形の「返し」がついています。ウナギのための筌には、筒状に竹を編んだものや、竹をそのまま使い、節を抜いて外皮を削っただけのものもあります。

 筌 京都府竹野郡丹後町 KT001840

筒形の筌

竹製の筒形の筌は、アナゴやウツボを海で獲るためのものです。岩場の隙間などを隠れ家としてそこで待ち構えて餌となる魚を獲る習性を逆手に取り、竹籠の筌を隠れ家と見せかけて誘い込むのです。紀伊半島南部や南房総、高知県ではこれが盛んで、ウツボをさばいて開きの状態にして天日干しする風景は、冬の風物詩となっています。

 筌 高知県須崎市 KT001419


企画監修・文

加藤幸治(かとう こうじ)
武蔵野美術大学教授、専門は民俗学(民具研究)。博士(文学)。和歌山県立紀伊風土記の丘学芸員、東北学院大学教授(同大学博物館学芸員兼任)を経て、2019年から現職。主な著書に『民俗学 フォークロア編:過去と向き合い表現する』(武蔵野美術出版局/2022年)、『民俗学 パブリック編:みずから学び、実践する』(武蔵野美術出版局/2025年)などがある。