たのしくてキラキラした場所

Photos: Tomohiko Tagawa(RAISONNE)

「海の意味」を聞く vol.1
ホヤぼーや(海の子)

ホタテのベルト、サメ皮のマントにサンマの剣を携えた、ホヤのあたまの海の子。

私たちにもなじみある海の生き物たちが集ったような「ホヤぼーや」は、宮城県気仙沼市の観光キャラクターとして2007年に登場した。「ゆるキャラ®︎グランプリ2012」では東北で1位(全国26位)を獲得し、その後も地道に地域の活動を続け今や気仙沼で知らない人はいない存在。町中のお店やグッズを通し、観光で訪れる人にも気仙沼のアピールに励んでいる。
「海と生きる」町を、陸からだけでなく海からの目線でも見てきたホヤぼーやは、海がもつ意味をどう考えるのだろう。

※はずかしがり屋なホヤぼーやの思いをつかむため、気仙沼市役所観光課の鈴木麻莉夏(すずき まりか)主事のサポートのもとインタビューを行った。

海の子の生活

私たちを笑顔で迎えてくれたホヤぼーやは、まず人間とはちょっと違う自らの暮らしについて話してくれた。

「おしごとのひは、海のパトロールやかんこうのしごとのおてつだい。おやすみのひはおどったりうたったり、ひなたぼっこをしたりしてすごしているよ」

観光キャラクターとして登場したホヤぼーやは、気仙沼の観光や認知度向上にとってすでに欠かせない存在となっている。毎年誕生日である7月20日近辺には「お誕生会」、10月にはファンイベント「あったげホヤぼーや」(「あったげ」は気仙沼の言葉で「たくさん」「とても」の意味)が催され、地域内外から多くのホヤぼーやファンが訪れる。地域の人々にもなじみ深い存在となっており、たとえば学校行事で登場すれば先生から子どもたちまでがみんな笑顔で彼を囲む。「イベントであうとみんな「ホヤぼーやだ!」ってこえをかけてくれるよね。それがすっごいうれしいよ」とはにかむ。

多くのファンが集った2025年の「あったげホヤぼーや」 提供:気仙沼市

ホヤぼーやは陸と海を日々行き来しながら暮らす。陸ではこのところ気仙沼以外の場所に呼ばれることも増え、同じ宮城県の仙台や時には東京や大阪に(海を通って)足を運ぶこともあるという。そうはいってもやはり、海の子の楽しみは海の中にある。

「およぐのがとくいなメカジキの「ビルくん」やほかのおともだちと、だれがいちばんはやくおよげるかきょうそうするのがたのしみなんだ」

そう語るホヤぼーやの身振りは軽やかだ。もう一つの楽しみは海のパトロールで珍しいものを見つけることだという。目元に手を当てながら、最近は星型のサングラスを見つけたと教えてくれた。

 港町・気仙沼の酒場をイメージした場所で、海での暮らしの様子を伝えるホヤぼーやと鈴木主事(中央)

気仙沼の陸と海

ホヤぼーやは気仙沼という場所を「キラキラ」という言葉で表現する。

「キラキラしていておいしいものがたくさんあって、やさしいひとがいっぱいいるんだよ」

気仙沼湾から大島を望む 提供:気仙沼市

気仙沼の陸地の中でホヤぼーやのお気に入りは、大島にある亀山からの眺望。気仙沼湾から反対側の唐桑半島までを見通し、日の出や夕焼け、星空の絶景を満喫できるビューポイントだ。薄緑色の桜「御衣黄(ぎょいこう)」や椿が彩る亀山の山頂は、陸地では必ず訪れてほしい場所だという。

大島・亀山の観光施設「亀山テラス」のオープン当日、モノレールに乗る来訪客に手を振るホヤぼーや 提供:気仙沼市

では、海の子だからこそ知っている海の中はどうか。全国各地を訪れ、さまざなま海を知るホヤぼーやは、故郷・気仙沼の海をどんな場所だと感じているのか。

「いつもキラキラしてあかるくて、ひなたぼっこをしていると『きれいだな』ってかんじられるところがすき」

海の中を自由にたゆたうことができない私たち人間には見えない景色がある。ホヤぼーやの目に映る海は、輝きに満ちた、あたたかく美しい場所だ。陸と海の両方を活動の場としているホヤぼーやだからこそ、気仙沼のどこにいても「キラキラ」があると知りえたのだろう。

「みんなにもいつかあそびにきてほしいな」

私たちがホヤぼーやや海の仲間たちと一緒に泳ぎの競争ができる日は、いつになるだろうか。

震災から立ち上がる町と人を見て

「うん、(その日のことは)おぼえているよ。とってもびっくりしたし、かなしかった。海のなかもたいへんなことになったんだ」

2007年に登場したホヤぼーやは、2011年の東日本大震災の発災時も気仙沼で過ごしていた。あの日、3月11日。いつもなら「キラキラとあかるい」はずの海は、町をのみ込み、その風景を一変させた。津波は市内の至るところで人々の暮らしを襲い、市内では4割近い世帯が被災し、震災関連死を含めると1,300人以上が犠牲となる、大災害となった。

被害を受けたのは陸地だけではない。海もまた、大きな影響を受けた。津波によって陸上の施設が壊れ、重油や大量のがれき、土砂が海へ流れ込んだ。海藻が流され、海底の地形も大きく変わった。
陸も海も、かつての姿を思い出せないほど変わってしまった。その光景を前に、ホヤぼーやや気仙沼の人々が言葉を失ったことは、一度や二度ではなかっただろう。

 気仙沼の海をながめるホヤぼーや

それでも、人々は海とともにある暮らしを、いち早く取り戻そうとした。同年春以降には、ワカメやホタテなどの養殖漁業がいち早く再開された。6月には魚市場も再開し、水揚げ高14年連続日本一(当時)を記録していたカツオを受け入れる体制も整えられた。
海の怖さを目の当たりにしながらも、人々は再び海と関わり、海とともに生きる道を選んだ。その思いと姿勢は「海と生きる」という復興アイデンティティに結実し、その後のまちづくりや人材育成に受け継がれていった(参照:「海と生きる」)。

そうした気仙沼の人々のあり方が、ホヤぼーやの海への思いを今まで以上に強いものにした。

「みんなのすがたをみて、ぼくも海のことをもっとたいせつにしたいとおもったんだよ」

私たちの多くは、普段、海がどのような意味を持つのかを意識していない。海が物理的にも心理的にも遠いから、意識しにくいこともある。一方で、海が身の回りに当たり前にある人にとっては、隔たりがないからこそ、かえってその意味を意識できないということもあるだろう。

海の子 ホヤぼーやのそばに、ずっと近くで一緒にあり続けた海。その海を、あらためてかけがえのない存在として、もっと大切にしたいと見つめ直すきっかけをくれたのは、震災を経てもなお、海とともに生きることを決めた気仙沼の人々にほかならなかった。

※ 参考資料:宮城県気仙沼市(2021)『海と生きるー気仙沼市東日本大震災復興記録誌』

海がないと、たのしくない!

震災を経て、土地のかさ上げや防潮堤の整備などが進み、気仙沼の陸から海にかけての風景は大きく変化した。同じ被害を繰り返さないための取り組みの結果、当たり前にそこにあった海との関係に隔たりが生じたと感じられることもある。それでも、そうした陸のあり方の変化を柔軟に組み入れながら、海と結びついた気仙沼のアイデンティティの根幹はいまも変わることはない。人々は今日も海に向かい、海とともに生きる日々を送っている。

 子どもたちに海のキラキラを伝えるホヤぼーや 提供:気仙沼市

では、海の側では、何か変わったと感じることはあるのだろうか。

「まえよりちょっとあったかくなったね」

ホヤぼーやは右手をぱたぱたとさせながら話す。日本だけでなく世界各地で記録的な暑さが伝えられるようになったが、どうやら海も同じ調子のようだ。このまま海の温度が高まり続けば、ホヤぼーやの新しい仲間が増える一方で、お別れをしなければならない仲間も現れるかもしれない。

「でも、キラキラしていてきれいなところや、おいしい海のさちがいっぱいあることはいまもかわらないよ。これからもきれいでいろんななかまがいる海にしていきたいな」

ホヤぼーやは、気仙沼の海に起きている変化と、海が今日も輝いていることを同時に語る。変化と輝きは、どちらも今の海のありのままの姿だ。けれど私たちは海の問題の深刻さを語るとき、その輝きを忘れてしまうことがある。反対に、海の美しさだけを強調するあまり、そこにある変化から目をそらしてしまうこともある。

その両面をひとつの「海」として捉え、伝える海の子 ホヤぼーや。その視点は、私たちが海の意味を、これまでよりも一歩深く考えるための出発点を示してくれたように思う。

陸と海がひとつになって形づくられてきた気仙沼。その象徴ともいえるホヤぼーやの思いは、この言葉に凝縮されている。

「海がないと、たのしくない!」

海の子 ホヤぼーや(うみのこ ほやぼーや)

7月20日生まれ。2008年の仙台・宮城デスティネーションキャンペーンに向けた一般公募の中で、2007年に観光キャラクターとして初登場。好きな言葉は「はまらいんや」(気仙沼の言葉で「一緒にやりましょう」の意味)。ファンレターは「988-8555 ホヤぼーや」(※住所記入不要)まで。

HP:海の子 ホヤぼーや
IG:@kesennuma_kitekerain (for foreign visitors:@kesennuma.japan


ホヤぼーやからのお知らせ

「亀山テラス」が7月19日にオープン

かつて大島・亀山のふもとから山頂までをつないでいたリフトの後を継承するモノレールと、新たな観光施設がオープン。絶好のビュースポットから「緑の真珠」とも言われる大島と気仙沼の町、そして陸と海とのつながりを感じてください。
Website:亀山テラス

ファンイベント「あったげホヤぼーや」が2026年も開催

毎年多くの出店、イベントが催されるホヤぼーやファンのための一日が、今年も10月初旬に開催されます(詳細は近日中に公開予定)。今年もこの日のために、ホヤぼーやが特別な衣装を準備しているとのこと。「ホヤぼーやコーデ」をした多くの友達と会えることを、ホヤぼーやも楽しみにしています!
(参考)2025年度のあったげホヤぼーやWebsite:気仙沼さ来てけらいん

Text・Realization:Daiki Kato(3710Lab)