本展示では、写真家・津田直の視点を通してイノーを見つめ、海との関わり方を探り、その意味を問い直す。
海と
空の
間
水平線の先に 白波
天空の果てに 白い光
が放たれている
太陽は西の海の深みへ
朔月は姿を見せはしない
波の干潟に立つ
暗闇の人影
イノーは太古から
おんなたちの居たところ



















人が住む島としては、沖縄最北端に位置する伊平屋島。島は珊瑚礁が連なる海岸線と砂浜に囲まれ、海は陽光が射し込むと翡翠色に輝く。珊瑚礁の内側はイノーと呼ばれ、潮が引くと干瀬があらわれる浅い海になっていて、そこでは昔からイザリ漁(大潮で潮が引いた際、夜間に行う潮干狩りのような漁法)が行われてきた。珊瑚礁の向こうには、大きな波がうねった外洋が広がっている。以前から通い続けているこの伊平屋島を新月に合わせ訪ねた。
イザリ漁に同行させてもらえることになった夜、そとは強風が吹き付けていたけれど、女性たちは穏やかな表情で風は収まるからという。真夜中に待合わせた頃には風は止み、海は静まりかえっていた。膝くらいまで海水に浸り海の中を歩き始めたとき、いきものたちの気配が波と共に押し寄せてくるという感動から、闇の怖さより先に身体は安堵感に包まれていった。

発光したような真っ白な海老、海底を歩くカニ、足の間を通り抜けていく縞模様のウミヘビを眺めながら、イノーに僕は立っていた。水平線を追うように目線を上げると、二人の人影が懐中電灯の緑白色の中に滲んで見えた。大潮によってタコが移動するのを見計らい、暗闇の中で銛を使い手長ダコを捕る手付きは素早く、名人と呼ばれているのには合点がいった。この日の晩はおよそ3時間の間にヒメジ科の魚であるオジサンを1匹、手長ダコを7匹、タコを2匹とエビを少々捕った。海から上がると、彼女たちは海からの恵みだからすべて持って帰りなさいと言った。宿の宿泊者全員に渡せる程の魚たちを、僕は抱えるようにして持ち帰った。
さすがに一瞬唖然としたが、僕はある話を思い出していた。民俗学者・地名学者の谷川健一氏が著書『渚の思想』の中で「渚は平等性を確保される場所です。漁師たちが地引網をするとき、小さな容れ物を持ってそこへ行くと、漁師たちは同じように分けてくれます。これは、労働の平等性と同時に分配の平等性にも従っているわけです。渚の漁撈に加わった者に対する平等感覚が、昔から伝統的にあったのです」と語っていた言葉。
つまり、海とも陸とも言えない、このイノーという空間では、ずっと昔から居合わせたものに自然からの恩恵が手渡されてきたのだろう。翌朝、タコたちは見事に朝食を彩ってくれていた。

写真・文 津田 直(つだ なお)
1976年神戸生まれ。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている写真家。文化の古層が我々に示唆する世界を見出すため、見えない時間に目を向ける。2001年よりランドスケープの写真作品を発表。また最近では、現代美術のフィールドを越えて他分野との共同制作や雑誌連載、講演会、特別授業を行うなど活動は多岐にわたる。
主なシリーズに、『SMOKE LINE』(2008)、『Storm Last Night』(2010)、『Grassland Tears』(2016-)、『Elnias Forest』(2018)、『LO』(2026)などがある。みなとラボとは二回にわたり協働で行った海洋教育のワークショップの成果が『海を見ているたくさんの目/聞こえてきた海』(みなとラボ出版)として書籍化されている。
Website
https://tsudanao.com/
協力 大友洋一 、新垣雅士、新垣仁美、西江祥子、野浦英芳、伊平屋村漁業協同組合