
ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.14は、関西を拠点とするDJのobocoさんが登場です。スペインのバレアレス諸島(地中海)のような開放感、夕暮れの郷愁などを感じさせる「バレアリック・サウンド」を、韓国の録音物のなかにも見いだし、その再評価につながる発掘をしてきたひとりでもあります。「盆の海」と題する、霊の気配がただようようなプレイリストをつくっていただきました。
韓国のポップスとバレアリックへの視座
ーobocoさんは、暮らしのなかでの海とどのように接してきましたか?
出身が京都の宇治市と内陸だったので、海は縁遠い存在でした。ただ、関西では、神戸港などからフェリーに乗って四国や九州に旅行するのが、値段も安くてわりとポピュラーなんですね。子どものころの海の思い出といえば、潮干狩りに行ったことと、フェリーでの家族旅行です。
ーobocoさんは、韓国の「バレアリック・サウンド」(コレアリック=Korearic)を偏愛してきた人でもあり、そうした選曲もありうると思っていました。
バカンスみたいな感じですか?
ーはい。よくDJでかけていたのは、10年近く前のことかもしれませんが……そもそものきっかけは?
たしかに腰を据えてハマってたのはかなり昔なので、今回はそこにはあまり意識がいってなかったです。もちろん、いまでも変わらずに好きで聴いてはいますが。当時、日本の「シティ・ポップ」といわれる範疇のレコードが、まだ100〜300円ほどで売られていたのを買い漁っていたんです。それと同時に、DJ文化のなかで「バレアリック」といわれるものが自分のなかで拡大解釈のような形で重なって、日本の「シティ・ポップ」のマイナーなものも聴きつつ、韓国の1980年代後半から90年代前半あたりの音楽に興味が漂流して、たどり着いたように思いますね。そのころにタイトルや歌手の名前の読み方もわからない韓国の音楽をいろいろ聴いていけたのは、YouTubeのサジェスト機能が本格的になったのも大きかったです。
ー日本の「シティ・ポップ」では、都会と海景がモチーフのひとつになってきました。
韓国のポップスは、外国語の音楽で歌はダイレクトにはわからないけど、日本と同じアジアだからか、参考元にしているであろう、英米のいわゆる洋楽ポップスとの距離感が近しく思えるから、親しみやすさも感じられて、ちょうどええ塩梅やったわけです。あまりにもハマってしまい、レコードを買うために韓国へ行ったりもしました。そのときは観光もほぼせず、農村に住むレコード・ディーラーの家とか蚤の市とかばかりで。だから、そういう曲のなかで歌われてるような済州島のビーチとかもぜんぜん知らない……。まあ、でも何曲か入れてもよかったですね。最近も久しぶりにDJでかけたら、若い人たちからも反応があったし。
霊が集まる「盆の海」
ーしかしながら、このたびいただいたプレイリストは「盆の海」をテーマとしています。
今回、お盆前の公開となるプレイリストなので、合わせました。盆の海って、縁起が悪いっていいますよね。「帰ってきた霊に足を引っぱられるから、海に入ってはいけない」と、こうした言い伝えも、Google検索のサジェストで知ったんですが……。
ーそうして知見を広げてこられたと。
実際、8月の盆の時期って、台風で気象が荒れやすかったり、大きなクラゲが増えたり、海に入ると危ないということもあって、ある意味、合理的な言い伝えのようなんです。
ー海に霊が集まるんですかね?
そもそもは「死者の霊は、盆や正月に山から里へ戻ってくる」という話ですよね。そうしたなかで、里ではなく、海に行く霊には、夏休みに実家に帰らへんで、都会にいる若者のようなイメージもわきました。すこし寂しさもあるというか、実家とか地元にも思い入れなんてなくて、友だちとクラブやライブハウスに集まるみたいな。そういう「なぜか盆も正月も都会にいる人たち」の感じも重ねて、プレイリストをつくりました。
ープレイリスト全体のストーリーはありますか?
最初は昼間、人や霊のいない海からはじまって、夜になるにつれてふわーっと集まってきて、朝になると去っていくという流れです。そういうわけで、まず1曲目は昼下がりのカラッとした夏のイメージで選びました。
ーAntonio Adolfoの“Venice”ですね。
ブラジルの鍵盤奏者の方です。タイトルも”Venice”で、(イタリアの「水の都」である)ベネチア。今回、タイトルに引っぱられて選んだ曲も多いですね。次の曲名も”Under the Waves”ですし、でも、それが意外とハマっていきました。
ーその次は、Sam Gendel ”Shippo (七宝, seven treasures of the Buddha)”。
オレゴン州コロンビア川の支流に浮かぶ小屋にスタジオをつくって、そこで録音したアルバム『blueblue』に入っている曲です。水辺のようなフワフワした音のアルバムなんですが、日本の伝統的な刺繍である「刺し子」の模様にちなんだ言葉を、各曲のタイトルに引用しているようです。
ー抽象的で心地よい音像が続きます。4曲目はK-LONE “With U (feat. Eliza Rose)”。
この曲は、波が打ち寄せるような音のイメージで選びました。時間としては夏の夕方、17〜18時ごろで、まだ明るい。
ーここまでまだ、ひと気はない?
「盆の海に行ったらあきまへん」って言われているから、誰もいないですね。次のPole “Raum 4”も静かな夕方ですが、日が落ちつつあります。
ーPoleはドイツ拠点の音響派テクノ、ミニマル・ダブの名手として知られています。
この曲は、海の水平線に、鳥がゆっくり飛んでいたり、魚がはねたりしているイメージです。その次の曲がフランスの映画『緑の光線』のテーマ曲のカバーなんですが、不穏な音ですよね。
ー同作品は、Éric Rohmer監督によるものです。
ヌーヴェル・ヴァーグ(フランス語で「新しい波」を意味する映画運動)の代表格の人ですね。Éric Rohmerはフランスの夏のバカンスをモチーフに映画をたくさん撮っているんですけど、『緑の光線』もそのひとつです。20代前半の女性が主人公ですが、なんか今年の夏はうまくバカンスが楽しめないっていう内容で。一緒に旅行へ行く友だちにドタキャンされて、人の多い海岸をひとりでさまよっていたり、バカンス先でさびしい思いをする。タイトルの『緑の光線』は、水平線に日が沈むときにごくまれに、太陽が緑色の光を発するように見える現象が実際にあって、それが劇中でも重要なシーンとして出てきます。ということで、ここで日の入りとなり夜へ。
ー続いて、Hirono Nishiyamaの”ユレテルウカンデル”。フランス語で「ラメール(海)」と歌っています。
これは1999年、(ミュージシャンの)竹村延和さんが主宰するレーベル「Childisc」からのリリースですね。Hirono Nishiyamaさんはこの後に細野晴臣さんのレーベルからも作品を出している、30年近いキャリアを持つ方です。現在はGutevolkという名義をメインに活動されているようです。
ーここでも、霊はまだ出てきてないですか?
いや、(曲名のとおり)揺れてるし、浮かんでるので、出てきていますね。
ーそして、WOO “A Wave”。
イギリス出身の兄弟による宅録デュオですね。これも”A Wave”という曲名に引っぱられた形ですが、暗くなってきた海で、ザバザバと不穏に波立っているイメージです。その次の “クラゲの世界”では、暗い海のなかにクラゲがほのかに発光して見えてきます。
ー”クラゲの世界”はファッションデザイナー、テーラーである信國大志(TAISHI NOBUKUNI)さんが、2024年にリリースされたレコードの曲なんですね。
TAISHI NOBUKUNIさんは、ファッションにはうとい自分でも、三つ上の兄が読んでいたファッション雑誌とかで見た記憶があるので、知っている方も多いと思いますね。その人が突如、歌のレコードを出したんです。
ーしかも、霊が出てきそうな、怪しいサイケデリック・フォーク。
福岡県の糸島にある小さなレーベルからリリースされていて、直接、そのレーベルの通販で買いました。
ーそこから、Zazou Bikayeの“Signorina”。
完全に夜中の真っ暗な時間の海ですね。フランスのHector Zazouさんと、コンゴのBony Bikayeさんによるユニットの曲です。この曲は、オリジナルのアルバムには入っていなくて、再発盤にボーナス・トラックとして収録されています。
ーその次が、アメリカの女性アーティスト、Cheri Knightによる“Water Project #2261”。
これは近年に現代音楽の作曲家として出したレコードに入っているものですが、Cheri Knightさんはカントリーロックバンドのベーシストとしても活動してたりするようです。この曲は夜明け前後、海もすこしだけ明るくなってきています。やや神秘的な感じですかね。霊がみんなで声を出して歌っているイメージです。
ーそして、KING KRULE “Whaleshark”。
イングランド出身のシンガー・ソングライターですね。タイトルは「ジンベエザメ」を意味していて、改めて歌詞の和訳を見ると、雪が出てきたりしてぜんぜん夏の海じゃないっていう気もしますが、雪の降る様子をジンベエザメの体の水玉模様と重ね合わせてるのかな? とか。いろいろ隠喩がありそうですね。ここでもう夜は終わりつつあり、だいぶ明るくなってきました。次の曲は、同じくイングランドのプログレバンドMatching Moleで “O’Caroline”。海上に日が差してくるイメージですね。
ーちなみに、ずっと海上ですか?
プレイリスト全体をとおして、つねに海上付近を漂っている状態ですね。Kazumichi Komatsu ”Umi Ga Kikoeru“はYusaku Araiさんがリミックスしたものを選びました。日がのぼって空が明るくなって、霊がサーッと去っていくイメージです。この曲は、Doveさん、Le Makeupさんがフューチャリング・シンガーとして参加していて、Komatsuさん含めて彼らには関西でよくお世話になっています。このあいだもイベントで一緒でした。
ー夜が明けて、朝になりました。
また誰もいない海に戻ったので、The Beach Boys ”Caroline, No”の、歌が入っていないインストのバージョンを選びました。曲の最後に、車のクラクション、犬がワンワン吠えるSE(効果音)も入っていて、往生際悪くダラダラして居残ってる霊に向かって犬が吠えているようなイメージもあります。
ー最後はThe Upsetters “Cold Weather”。
昼前の能天気で明るい感じなんですけど、タイトルが”Cold Weather”で、ひんやりとした冷たさもあります。The Upsettersは土っぽい曲が多くて、水の気配が少ないようにも思ったんですけど、この曲は水がジョロジョロ流れる音も入っていますし、歌っているLee Perryのボーカルも霊的なように感じます。締めとしてホラー映画とかでよくあるような、ひと段落したあとに「実は、まだ終わっていなかった…」的なシーンのイメージで最後に持ってきました。
話していて、ひとつ思い出したんですけど、幼少期、家族旅行で九州にフェリーで行ったとき、その途中、海上で「人が落ちた」というアナウンスがあったんです。それから2時間ほど、瀬戸内海をグルグル回って捜索していたのですが、再度「見つからなかった」という旨のアナウンスがあり、そのまま船は九州に向かったんですよ。出発したってことは、もともと乗っていた全員がいるのを確認できたってことですよね。普通は乗船客のリストもあるから調べられるはずですし。じゃあ、誰かが見た、その「人が落ちた」というのは、なんだったんでしょう。
ーヒヤッと背筋が凍ります。最後にリスナーのみなさんへ。
今回は1時間のプレイリストで、空想の海の半日くらいのことを表現しているんですけど、そういうことができるのは、音楽の強みやおもしろさやなあと。全体をBGMとしても聴き流せるようにもしていますが、おひまでしたら1時間、グッと集中してイメージしながら聴いてもらえると、ゾクッとして、クーラーなしでも過ごせるかもしれません。どうやら今年の夏も暑くなりそうなので、頭のなかから涼しくなりたいときに聴いてもらえたらと思います。
ー本日はありがとうございました!
ありがとうございました!
TRACKLIST
Antonio Adolfo – Venice
The Natural Yogurt Band – Under the Waves
Sam Gendel – Shippo (七宝, seven treasures of the Buddha)
K-LONE – With U (feat. Eliza Rose)
Pole – Raum 4
Vincent Courtois, Daniel Erdmann, Robin Fincker – Le Rayon Vert
Hirono Nishiyama – ユレテルウカンデル
WOO – A Wave
信國大志 – クラゲの世界
Zazou Bikaye – Signorina
Cheri Knight – Water Project #2261
King Krule – Whaleshark
Matching Mole – O’Caroline
Kazumichi Komatsu – Umi Ga Kikoeru (feat. Dove & Le Makeup) [Yusaku Arai Remix]
The Beach Boys – Caroline, No (Instrumental Stereo Mix)
The Upsetters – Cold Weather

Profile
oboco | オボコ
1987年京都府宇治市生まれ。大阪市在住。現在は主にDJ自炊とのコンビ「慈母子」で活動。2023年にDJ実弾とのMIXテープをリリース。2024-26年7月にかけて難波ベアーズで月一DJパーティ『慈愛』を企画運営。個人活動としてウェブマガジンやライナーノーツなどでの文筆業も時折請け負う。
X : @vinylbon
取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀