
ミュージシャンやDJが、海にまつわる選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.12は、DJのNaggieさんが登場です。新宿OPENや東高円寺GRASSROOTSなど、多くの音楽ファンが信頼を寄せる場所でもプレイされ、音響エンジニアとして都内各所のサポートもされている方です。今回は、カリブ海に浮かぶ島国・ジャマイカ発祥の「レゲエ」にしぼった選曲をしていただきました。南国的なモチーフがアートワークに取り入れられたり、海辺でフェスが開催されたりと、レゲエには海のイメージが色濃くあります。はたしてその実相は?
レゲエに感じる海、土、ルーツ
ーNaggieさんは、かねてより海やレゲエに親しんでこられたのでしょうか?
出身は神奈川県の小田原市です。家からそう遠くない場所に「早川漁港」があったり、「酒匂海岸」からすぐ近くの中学校に通ったり、海は身近な存在でした。小田原は、釣り人が多かったように思います。湘南みたいな砂浜ではなく、砂利や丸っこい石が転がっている海ですね。
レゲエを聴きはじめたのは、大船(神奈川県鎌倉市)の高校に進学してからです。レゲエ好きな店主の古着店に通ったり、江の島の老舗クラブ「オッパーラ」に行ったりもしました。東京で暮らすようになってから、「小田原にも、地元に根ざしたレゲエのアーティストがいるよ」と教えてもらって、あらためて聴いたりもしました。
ー今回は、海とレゲエの関連性を探るべく、レゲエに限定した選曲をお願いしました。
オーダーをいただいて真っ先に思い浮かんだのが、1曲目のEddie Lovette “Mr. Sea”です。もともと、後半にセレクトしたDA’VILLEの”Mr. Sea”を先に知っていたんですが、調べてみたら、その原曲らしき1曲目のバージョンにたどり着いて、「こっちも好きだな」と思って聴いていました。
ー海を「ミスター」と擬人化して、問いかけるように歌う、のびのびとしたチューンです。2曲目は、多くの人に愛され続ける伝説的なシンガー、Dennis Brownによる”Sitting and Watching”。たゆたうようなギターの音色が、寄せては返す波を思わせます。
ゆるい感じのレゲエですが、歌詞がシリアスなんですよね。「人生が続く限り、誰もが強く立たなければならない」「自分自身を見つける必要がある」と歌っていたり、タイトルにある「座って見る」ことの対象も「愚か者」だったりします。
次のThe Tamlins “Smiling Faces Sometimes”も、曲調は明るいものの、シリアスなことを歌っていますね。和訳すると「笑顔はたまに嘘をつく」「笑顔はしかめつらを裏返しただけ」「嫉妬、苦悩、羨望」といった歌詞が並びます。こうしたギャップは「レゲエあるある」ではないかと思います。じっくり歌詞を聴いてもらえると、おもしろいかもしれません。
ー続く4曲目”Baltimore”では、アメリカ東海岸の港湾都市・ボルチモアを舞台に、生きることの難しさが歌われています。2曲目の”Sitting and Watching”から5曲目の”Africa”までは、レゲエ史を代表するドラムとベースの名コンビ「Sly & Robbie」が手がけたものですね。
今年の初めに、ドラムのSly Dunbarが他界された(享年73)ので、追悼の意味も込めて選びました。2021年にベースのRobbie Shakespeareも亡くなっています(享年68)が、ふたりは1970年代より生楽器のドラムとベース、80年代以降は電子ドラムやシンセベースを導入するなどして数々のセッションでも活躍し、レコーディングした楽曲は20万曲以上ともいわれています。
ー”Baltimore”の次は、Lutan Fyah “Africa”。この2曲は、歌以外のバックの演奏のリズムが同じもののように聴こえます。
レゲエには、ひとつのバックトラック(リディム)を共有して、歌い手ごとに別の楽曲としてリリースする独自の文化があるんです。歌う内容だったり、歌い方だったりで、それぞれアプローチを変えるんですね。
ここで使われているバックトラックは、「Baltimore」リディムと呼ばれるものです。その次のLila Iké “Thy Will”までの3曲が「Baltimore」リディムですね。
ー”Baltimore”の原曲は、アメリカ合衆国のシンガー・ソング・ライター、Randy Newmanによるもので、1977年に発表されました。場所や時代を越えて受け継がれ、変容を重ねた延長線上に、2020年リリースのLila Iké “Thy Will”があると。
この曲では「意志」とタイトルにもあるように、困難な状況でも立ち上がっていくような「生き方」を歌っていて、ルーツ・ロック・レゲエ ( ※1 ) のテイストが強いですね。
※1 ルーツ・ロック・レゲエ : 半世紀以上のあいだ聴かれ続ける、おもに黒人解放や社会問題を題材としたレゲエ。1930年にエチオピアの皇帝に即位したハイレ・セラシエ1世を黒人解放の象徴としてあがめ、アフリカ(ルーツ)への回帰を願う「ラスタファリズム」を思想的な基盤とすることも知られている。
ー抑圧に立ち向かい、アフリカというルーツへ回帰しようとする意識。その背景には、奴隷船によって、アフリカからジャマイカまで連行された先人たちの歴史が色濃く刻まれており、それが大きな影響を与えていると考えられています。
この次のAlborosie “Faith (feat. Jaz Elise)”も、生き方や信仰の大切さを説くルーツ志向の曲です。私自身はキリスト教徒ではないものの、生活するうえで共通する部分はあって、そこへの共感で聴いています。
ー続く”In Our Sight’を歌うSkip Marleyは、レゲエの代表的なアーティストのひとり、Bob Marleyの孫です。
Skip Marleyは1996年生まれで、マイアミ(アメリカ合衆国)で育ち、シンガー・ソングライターとしてデビューした人なんですよね。Bob Marleyは、妻のRita以外とのあいだにも公式には11人の子どもがいて、孫になると100人を超すともいわれています。
ーその次には日本のパンク・レゲエのバンド、SUPER DUMBの”雨と風”を選んでいます。
DJのMESSY Tさんが都内で企画したイベントに、SUPER DUMBのフジムラさんが「Electro Charge」というソロの名義で出演していたんです。それでSUPER DUMBを知ったので思い出深く、また、ジャマイカは昨年、大規模なハリケーンの被害に遭ったこともふまえて、”雨と風”を選びました。
ーGacha Medz & TRIGA FINGA “Likkle but Tallawah”は、そうした状況を受けて「がんばれジャマイカ」と日本語で応援する楽曲です。
この曲が収録されたコンピレーション・アルバム『Ja Connection Riddim』は、共通のバックトラックの上で、日本のレゲエMCがそれぞれ違う歌を吹き込んでいるものです。マイク・リレーみたいな形ですね。
ーちなみに、「マイク・リレー」とは?
複数の歌い手がいて、マイクを渡して、歌でつないでいく……と言えばいいのでしょうか。野外イベントでも、地元のMCたちが集まって、みんなでマイクをリレーして歌う、というのをやっていますね。昔の映像では、小さなスタジオでMCたちがギュウギュウになって、ひとつのマイクをリレーするように回しながら、それぞれのバース(パート)を吹き込む光景もよく見られます。
ーこの“Likkle but Tallawah”もそうですが、プレイリスト全体として、旧曲のみならず、新譜も多くセレクトされています。
ハリケーンの被害もありましたし、少しでも支援につながる可能性を考えると、最新のアーティストの曲を聴いてもらうほうがいいかなと思ったんです。「いまは苦しいけど、どうにかやっていこう」というスタンスの曲で何曲か続けました。
ーここまでお話を聞いてきて、レゲエは「海」と同時に、地に足をつけた「土」のテイストもにじんでいるように思いました。
“Mr. Sea”、Samory I “Ocean”、ARARE “ふね”など、直接、海を題材にした曲も選びましたが、レゲエは土臭さも強いですよね。ラスタファリの儀式音楽である「ナイヤビンギ」は、山間部のコミュニティでも行われてきましたし、思想や生活に根ざすことを「ルーツ」ととらえるなら、土もまた重要な要素のように思います。
ー終盤には、大地とつながっていくような、有機的でアコースティックなレゲエも選曲されています。
TRAPANEUR “WORLD PEACE (feat. Sustane)”は、世界平和、愛と結束などを歌った曲です。宗教や立場に関係なく、普遍的な愛を広げようという歌詞にも共感して選びました。
ー最後にリスナーのみなさんへ。
順番通りに聴いてもいいですし、レゲエのセレクター(選曲者)のスタイルで気になる曲だけ選んで聴いてもいいですし、楽しんでもらえたらうれしいです。
ー本日はありがとうございました!
TRACKLIST
Eddie Lovette – Mr. Sea
Dennis Brown – Sitting and Watching
The Tamlins – Smiling Faces Sometimes
The Tamlins – Baltimore
Lutan Fyah – Africa
Lila Iké – Thy Will
Alborosie – Faith (feat. Jaz Elise)
Skip Marley – In Our Sight
SUPER DUMB – 雨と風
Gacha Medz & TRIGA FINGA – Likkle but Tallawah
Najeeriii & MXSSIVH – Still Standing
TRAPANEUR – Mek it inna Life
Alicia Keys – Underdog (feat. Chronixx & Protoje)
Jesse Royal – Ignite
Samory I – Ocean
DA’VILLE – Mr. Sea
Hush – Wishes (Letters from the Music)
Jamelody – My King (Acoustic)
TRAPANEUR – WORLD PEACE (feat. Sustane)
Lila Iké – Love in a Lovely Way
ARARE – ふね

Profile
Naggie | ナギー
神奈川県小田原市出身。東高円寺Grassrootsにて”Toa”を偶数月に開催。
IG : naggieeee
取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀