ミュージシャンやDJが、海にまつわる選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.10は、ヒップホップトリオ「Dos Monos」のメンバーで、ラッパー/トラックメイカー/ビデオグラファ―と、多岐にわたって活動する没 a.k.a NGSさんが登場です。アメリカ合衆国のバンド、The Beach Boysが「いちばん好き」と語る没さんは、ヴィンテージ・ポップスの愛好家としても知られています。「越える場所としての海」と題して、楽曲をセレクトしていただきました。
歴史や背景からひもとく海の音楽
ー没さんは東京出身でしたっけ?
生まれは石川県の七尾市で、日本海側の七尾湾に面している場所です。家を出るとすぐに海があって、祖父の会社や物置きも海の前にありました。それが原風景で、自分にとっての海の印象は、その時点で決まっていたような気がします。
ーどのような海ですか?
砂浜ではなくて岩場で、岸からズドンとすぐに深くなる海です。色合いで言えば、ドス黒くて、青が深い海。夜の海などは特に、いまでも怖いものだと感じている部分がありますね。昔は、水木しげるが妖怪画として描く「海坊主」も実在するのではと思ったりもしていました。
ー没さんは東京の人だと思っていました。
小学生になるころには完全に東京に移ったので、それ以降はめったに海へ行くこともなくなり、海は「空想するもの」になりました。それで(サーフ・ミュージックの大家である)The Beach Boysが好きになったり、大学時代にはUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に留学したりもするんですけど。
ーUCLAは、海と近い場所にあるんですか?
サンタモニカという有名なビーチが近くて、たまにバスに乗って行ってましたね。桟橋に遊園地があったり、子連れのファミリーがいたりもして、「The Beach Boysが歌っているとおりの(明るくて大きい)太平洋だな」と。西海岸の海は、想像していたものとあまり違いがなかったですね。日本のビーチでは見たことがないくらい、波が大きかったのには驚きましたが。
ーご自身の体験、そして、ジャック・アタリ著『海の歴史』(プレジデント社)を読まれたことなどを踏まえて、今回のプレイリストでは海の「意味」にフォーカスし、「越える場所としての海」と題して選曲していただきました。
最初、水や海の「イメージ」で選曲する方向でも考えたんです。でも、この本(『海の歴史』)を思い出し、歌詞や楽曲の背景など「意味」のほうからやってみようと思って、音楽や人が海を渡っていくさまを描く曲もセレクトしています。1曲目はフランス語のCharles Trenet “La mer”(英題“Beyond The Sea”)からはじめて、最後はStevie Wonderによる同曲の英語バージョンを選びました。原曲のフランス語の歌詞は、美しく、変わらず存在するものとしての海、という描写で終わっていて、特に海を「越えるもの」としては描いてないんですよね。海を渡ったアメリカで新しく英語詞がつけられると、“beyond”が加えられて、恋愛と航海が題材になる。Stevieのこのバージョンはコテコテのビーチ感も出てますよね。
ー2曲目はThe Beatles “Here, There And Everywhere”です。
これは、3曲目のThe Beach Boys “God Only Knows”ありきで選んだ曲です。ポール・マッカートニーはこの曲からの影響を公言していますし、この2曲は対でよく語られるので、ポップスのなかではいちばん、音が海を越えていくダイナミズムがあるかなと。(これらの曲が収録されている)The Beatlesの『Revolver』とThe Beach Boysの『Pet Sounds』も、対照的に語られることが多いですよね。
ーアメリカの西海岸とイギリスのリヴァプールで呼応していたと。続く4曲目のGilberto Gilと11曲目のCaetano Velosoは、ともにブラジルからイギリスへ亡命した人ですね。
ふたりは、1960年代後半に起こった芸術運動「トロピカリア」の主要なメンバー。伝統的なブラジル音楽の特質を活かしながら、The Beatlesをはじめとしたロックなどの外来文化をラディカルにミックスさせていったのが「トロピカリア」で、そうした表現が保守的な軍事政権にとっては不都合だったようですね。反体制運動を取り締まる名目で逮捕され、海外へ逃亡するしかなかったようです。
ーこの曲のリリース当時、Gilberto Gilはすでにイギリスへ亡命していたんですか?
イギリスに行く前なんですよ。このときはブラジルから見ている海です。曲の冒頭には潮騒の音、雑踏の音が入っていて、終盤には「砂浜」「海の端」という歌詞も出てきます。(11曲目の)Caetano Velosoはロンドンで録音した、ロンドンでの孤独を描いている歌です。
ーその次がSun Raの“Yucatan I”。歴史を大きくとらえる視座に基づいた、宇宙にまつわる作品も多いジャズ・ミュージシャンによる曲です。
珍しく海の神話をテーマにしたアルバム『Atlantis』からの選曲です。音としては「船を漕いでいる」ようなイメージでしょうか。次のDrexciya “Aqua Worm Hole”につなげたかったのもここに選曲した理由のひとつです。
ーデトロイト・テクノのプロデューサー(デュオ)ですね。この曲が収録されたアルバムのタイトルは『Journey to the Deep Sea Dweller Ⅲ』で、直訳すると「深海に住む者への旅 3」。
Drexciyaには、バックストーリーがあるんです。それが、「アフリカからアメリカへ運行する奴隷船で、商人たちが妊婦と赤子たちを海に落とす。その子どもたちが、水中人として進化して“Drexciya”となって生き延びた」という神話のようなファンタジーが設定されているんです。越える場所としての海、というテーマを扱うにあたって、海を越えられなかったケースも考えたく、選曲しました。
ー音としてはテクノでつながっていきます。次は、YELLOW MAGIC ORCHESTRAの“Firecracker”。おもにアメリカ人が南国への憧れを表現した「エキゾチカ」の代表曲を、カバーしたものですね。
原曲を作曲したMartin Dennyは、南国だけではなく、東洋やアフリカなどさまざまな地域を空想して曲にしていたように思います。想像される側の日本の人がカバーをする、という方向で選びました。これがまた海を渡ってアメリカに帰ってヒットしたのが面白いなと。ここまでアジアの曲を選んでなかったので、バランスを取る意識もありました。
ーその次はジャマイカのThe Congos。この曲が収録されたアルバム『Heart of the Congos』は1曲目が“Fisherman”ですが、2曲目の “Congoman”を選んでいます。
よりストレートに「海」なのは“Fisherman”ですが、 “Congoman”にはリズムボックスのようにも聴こえるパーカッションが入っているので、Drexciya、YMOからの流れを踏まえて、こちらを選びました。この曲はジャマイカの音楽であるのと同時に、歴史的にはアフリカからの移民の音楽でもありますよね。あと、このアルバムは音として、船を漕いでいるイメージの曲が多いなと思いました。
ープレイリスト全体としても、船を漕いでいるイメージが強いですか?
そうですね。海を越えるというテーマなので、船を漕いでいる音やリズムなのかなと。次のLed Zeppelin “Immigrant Song”も、自分のなかでは船を漕いでいる音なんですよね。歌詞としては、ヴァイキング(海賊)が荒波を越えていく話ですし、「ドンドドダドッド、ドンドドダドッド」というギターとドラムのリフも反復している。これは船を漕いでいるリズムでしょう、と。
ーそして次が、Fleetwood Mac “Albatross”。
小休止の意味合いも込めて選んだインスト曲です。アホウドリ(Albatross)は、船乗りにとって幸運をもたらす象徴とされてきたんですよね。音響的にも、海や埠頭の風景を描いているように思います。
ー次はCelia Cruz “Cuando Salí De Cuba”。
この曲も亡命の話です。Celia Cruzのオリジナル曲ではないんですが、「私はキューバを出国したとき、愛を捨て、心を土に埋めた」というような歌詞です。
ー改めて見ると、大西洋を舞台とした曲が多いですね。そして次は再びジャマイカのレゲエで、Sister Nancy “Transport Connection”。
歌詞は海上交通についてではなく車の話なんですが、イギリスではこの外車、ニューヨークではこの外車に乗って、といった具合に、いろんな世界に広がっていくポジティブなイメージが描かれています。次のPoliceにつなげたいという意図もあって、ここに選びました。
ーThe Police “Reggatta de Blanc”。邦題では“白いレガッタ”です。
イギリスの白人ミュージシャンが、レゲエの要素を取り入れて、自分たちのロックのフィールドで表現した楽曲ですよね。レゲエの組み込み方にもいろいろあると思うんですが、The Policeは音としてかなり要素を薄めた使い方をしていて独特だなと思います。直接の交流があったうえでの影響というより、頭で考えて取り入れているような印象。(The Policeのフロントマンである)Stingは、その後のソロ活動に至るまでいわゆる“第三世界”と呼ばれていた地域の音楽に対して意識的でしたよね。
ーそこから、松任谷由実(ユーミン)に行きます(荒井由実 “瞳を閉じて”)。
長崎県奈留島の女子高校生がラジオ番組に送った 「自分たちの学校の校歌がほしい」というリクエストに応えて、ユーミンがこの曲をつくったという話ですよね。この地域では、高校を卒業すると、進学や就職で多くの若者が島を離れて暮らすことになるそうです。いままで挙げてきた曲と比べれば小さな規模にはなりますが、これも海を越える話ですよね。パーソナルなレベルの歌も入れたくて選びました。
ーRandy Newman “Sail Away”は、奴隷船に乗る商人の視点で描かれた歌です。「アメリカは素晴らしいぞ」と、奴隷に吹き込んでいます。
どのような気持ちでこの曲をつくったんだろう、と考えさせられます。美しい曲だし、美しいと思ってしまうけど、歌詞が強烈。この曲は、自分の反省として入れたんです。アジアも含めて世界中の「海の曲」を選ぼうとしたんですが、ポップ・ミュージックとなると、どうしてもアメリカ、英語圏中心のセレクトになってしまって。この曲を例に挙げるまでもなく、「アメリカに向かって海を越える」というのは、決してポジティブな意味だけではないですよね。先日、若林恵さん(編集者)とお話する機会があって、そのなかでこの“Sail Away”の歌詞について教えていただいて、「アメリカだけを見ていてはいけないな」と改めて思いました。Randy Newmanは、アメリカの内側からこうした表現ができているから、すごいですね。
ーみなさま、船を漕いでいるようなリズムとともに、プレイリストを楽しんでいただければ幸いです。本日はありがとうございました!
TRACKLIST
Charles Trenet – La mer
The Beatles – Here, There And Everywhere
The Beach Boys – God Only Knows
Gilberto Gil – Luzia Luluza
Sun Ra – Yucatan I
Drexciya – Aqua Worm Hole
YELLOW MAGIC ORCHESTRA – Firecracker
The Congos – Congoman
Led Zeppelin – Immigrant Song
Fleetwood Mac – Albatross
Caetano Veloso – London London
Celia Cruz – Cuando Salí De Cuba
Sister Nancy – Transport Connection
The Police – Reggatta de Blanc
荒井由実 – 瞳を閉じて
Randy Newman – Sail Away
Charles Lloyd – The Water Is Wide
Stevie Wonder – Beyond The Sea

Profile
没 a.k.a NGS | ボツ エーケーエー エヌジーエス
ラッパー/プロデューサー/映像作家。Dos Monos、5 Star Cowboyのメンバー。
最新作にbringlife、PICNIC YOUとの連名アルバム『5 Star Cowboy Deluxe』がある。
IG : @botsu_ngs
取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀