TORSO / 潮騒しおさいRADIO vol.09

ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。

vol.9は、KENJI(フルート、サックスほか)とORIE (チェロ、ボイスほか)の夫婦からなるユニット「TORSO」が登場です。ミニマルな管弦楽による静謐な世界観は、コンテンポラリー・クラシックの界隈にとどまらず、国内外で高い評価を受け、制作したレコードも続々と完売。「SALT WATER」「SAND」「HEAT」など、自然を想起させるようなタイトルの曲も多くリリースされています。「海を漂う音楽」と題し、楽曲をセレクトしていただきました。

「海底散歩」で聴くジャズ、レゲエetc.

ーこれまでの暮らしのなかで、海とどのように接してきましたか?

KENJI : 僕は海がない栃木県の出身で、年に1回、海水浴に行くかどうかくらいでした。

ORIE : 私は小さいころだけ海になじみがあって、親戚の叔父さんがスキン・ダイビング(素潜り)が好きだったので、毎年夏は1週間ほど、海の近くの民宿に泊まって過ごしてました。

ーどこの海ですか?

ORIE : おもに千葉県の勝浦、館山、浦安あたりだったと思います。海に潜ってる叔父さんを、浮いて見ているのが好きでした。昔、砂浜に、ボロボロの廃船のなかで寝泊まりできる、民宿みたいな場所があって、そこも印象に残っています。

ーTORSOの楽曲にも、海を漂うような心地よさを覚えます。アルバム『SET OUT』に収録された”SALT WATER”は「塩水」と訳せますし。

ORIE : ”SALT WATER”は、塩水といっても、人のなかを巡る流れから、波打つ揺れへとつながっているような感じでしょうか。

KENJI : ただ、壮大で雄大な、スケールの大きな海だけを想定はしてはいないですね。強いて言うなら「こぢんまりした海」かなと。

ORIE : 普通に呼吸できて、いろんな要素を感じるようなものができたらいいなと。

KENJI : 海ってトロピカルな明るい面だけじゃなくて、夜の海や海底などのように暗い側面もあったりしますよね。そういったイメージもあったように思います。

ORIE : 曲をつくるときはお互いのイメージをそろえたり、整えたりせず、こんな感じでそれぞれのイメージをそのまま曲にしています。

ーこのプレイリストは、そうしたムードを拡張させる形とでも言いましょうか、「海を漂う音楽」と題して選曲していただきました。全体を通してのストーリーはありますか?

ORIE : 私はイメージがありました。1曲目のErnest Hood “Dusk”は、「上」からだんだん海底に降りていっている感じで。

KENJI : 海面から?

ORIE : 海面から。最初は光が届いている場所からゆっくり沈んでいって、光が届くか届かないかギリギリのところで2曲目になり、クジラがグングン潜っていくときのようなスピードで奥深く進み、4曲目で海底に着地。そこから歩いて、最後は海に溶けちゃったイメージでした。

ー2曲目はKing Tubby “Frenemy Dub”。レゲエの曲ですが、楽器やボーカルのトラックをバラバラに解体し、エコー(反響音の増幅)などのエフェクトを活用して再構築する「ダブ」という手法によるものですね。

KENJI : 「全曲ダブ」のプレイリストにしようかな、とも考えたんです。特にKing Tubbysの解像度の高いしっとりしたエコーの伸びが、延々と海のなかを漂っているようにも感じるので。

ORIE : あと、King Tubbyのこのダブは、耳を手でふさいだときのようなモワモワした音がして、水のなかにいるみたいだとも思って。

KENJI : ただ、プレイリストの試作段階で入れていたThe Upsetters『Blackboard Jungle Dub』の曲のように、ボーカルが独特で、どちらかと言うと、土くさいサウンドも少なくないですよね。そうした経緯もあって、今回ジャンルを限定しない選曲にしました。

ーTORSOの楽曲でも、声が断片的に使われているものがありますね。これもダブ的な表現だと受け止めています。

ORIE : 制作していくなかで自然と声が入ったという感じです。楽器のみの構成と決めているわけでもないので。

KENJI : いわゆるボーカリストではないので、あくまで楽器に近い存在感というか。主役として歌い上げるということは狙っていないんですよね。そういう意味では、断片的なボーカルは間違いなくダブの影響ですね。

ー4曲目“Reaching the Gulf”のDylan Carlsonは、ゆったりしたテンポでヘビーに鳴らす「ドローン・メタル」の先駆者的な存在で、7曲目のEARTHも氏が率いてきたバンドです。

KENJI : 海の底の底となると、こういう重たくて不穏なギターのような音が聴こえてきても、おかしくないんじゃないかなと思って。

ー加えて、Brahja、Jeremy Steigと、後半にはジャズ〜ロックが交差するような曲も挙げていただきました。

KENJI : ジャズでも海を感じられる曲はあるなあと。海のなかにある、形容しがたい、人の理解を超えるような多様な生態系のイメージとして選曲しました。

ORIE : 前半は水や海のイメージに近いものが多いけど、後半はいろんな海底の場面が展開しているイメージで選びました。

ーこのあたりも深海のイメージなんですね。

KENJI : ずっと深いですね。でも、深海にもいろいろな景色があるんじゃないかなと思っています。

ORIE : 深海を、いろんな気持ちで歩いている感じでしょうか。

ーそうして出てくるのが、Public Image Ltdの”Albatross”。ポスト・パンクの代表曲のひとつですが、この流れで聴くと、たしかに深海のように思えます。モコモコした音像で、ノソノソしたグルーヴです。

KENJI : この曲は、わりと選曲しはじめの段階で出てきたよね?

ORIE : 最初、「海底」というイメージもまだ固まってないとき、「この曲が海?」って言ったかも。でも、この流れだったらいいなと思いました。

KENJI : この次のPeter Gordon & David Cunningham ”The Non-Loop”も、本当にディープな海底を漂っているイメージです。

ORIE : この曲は、触覚だけで海底を動いている感じです。

KENJI : もし、深い海底で音が聴こえてくるとしたら、こういう音が流れているかなと想像しました。

ORIE : 静かすぎて聴こえてくる音、というか。

ー最後はThe Beach Boys ”’Til I Die”歌詞では、海に浮かぶコルクの目線で、海の深さや苦しみ、絶望を描いています。

ORIE : 歌詞が重く感じますよね。海に対して、謙虚に、でも、いい方向へ向かっていけたらという思いも込めて、この曲を最後に選びました。

KENJI : サウンドとしては、海底だけど暗くはなくて、竜宮城みたいにドリーミーな方向で着地できたと思います。

ー最後にリスナーのみなさんへ。このプレイリストは、どのように聴けば、より楽しめそうでしょうか?

KENJI : ジャンルで縛らず、質感が「海中みたいかどうか」という観点から選曲しました。海底でも光が差しているのか、暗い場所か……という違いも、あわせて楽しんでいただけたらと思います。

ORIE : 「海底」という視界がよくない空間でも、いろんな想像を巡らせて楽しく聴いてもらえたら嬉しいです。将来、気軽に海底を散歩できる日が来たら、そのときに聴いてもらうのもいいなと。

ー夢のあるお話ですね! 本日はありがとうございました。


TRACKLIST

Ernest Hood – Dusk
King Tubby – Frenemy Dub
Gigi Masin & Charles Hayward – First Time Ruth Saw The Sea
Dylan Carlson – Reaching the Gulf
King Tubby – Dread Dub
Brahja – Welcom to Wohlom
Earth – Sigil of Brass
Jeremy Steig – Dream Passage
Public Image Ltd – Albatross
Peter Gordon & David Cunningham – The Non-Loop
The Beach Boys – ‘Til I Die


Profile

TORSO | トルソ

TORSOは、GROUPやSLOW CRIMESでサックス奏者として活動するKENJI (フルート、サックスほか)と、チェロと声による表現を探求するORIE (チェロ、ボイスほか)によるデュオ。
2019年、自主レーベル「OZATO RECORD」を立ち上げ、以降東京を拠点に活動を展開。同年、Joe Taliaをエンジニアに迎え、デビューアルバム『SETOUT』をリリース。
2021年にはIlicit Tsuboiがミックスを手がけた限定12インチシングルを発表。2024年には、京都の老舗茶舗・宇治園が運営するレーベルTEALIGHTSOUNDより、コンセプトアルバム『WATERCURVE』をリリース。2025年には、ダブエンジニア内田直之がミックスを担当したセカンドアルバム『FACES』を発表。同年11月には、EM RecordsよりEddie Marconとの7インチ・スプリット作品をリリースしている。

IG : @fishcurryman @orrietty_

取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀