ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.8は「pagtas」名義で作曲と演奏を行なう一方、DJとしても活躍する坂田律子さんが登場です。世界各地の港湾都市で生まれた音楽に魅せられてきた方でもあります。北・中南米、アジア、アフリカ、北欧など、船に乗って「音の旅」をするような楽曲をセレクトしていただきました。
香港、ブラジル、鳥取〜兵庫の海景
ー坂田さんは、かつて「乗り鉄」として各地の海を訪れていたそうですね。
電車に乗って海を見てきたなあと。太平洋側は青森から瀬戸内海の広島・尾道まで(宮城南部を除く)、そして日本海側、九州なども好きで行きましたね。
ーお気に入りの海岸線はありますか?
強いて挙げるなら、鳥取から兵庫へ抜けるあたりの日本海側でしょうか。鳥取の大岩駅近くで「浦富海岸・島めぐり遊覧船」に乗ったときは、小さな島が点々と連なっているのが見えて、人もあまり多くなく、にぎやかすぎないのもよかったです。
あとは、兵庫県北部の海沿いにある町、伊根。海に浮かぶような「舟屋」(一階が船着場になっている家)が並んだ光景は鮮烈でした。
ー国外の海はいかがですか?
だいぶ前の話ですが、ブラジル・リオデジャネイロに行きました。温暖な観光地らしく、海沿いには波の柄の石畳も敷かれていて、今回選曲したTamba Trioの”Beira-Mar”のように、自分が好きで聴いてきたブラジル音楽のムードと一致するなと思っています。
ブラジル北部の港町・サルヴァドールの海のほうが印象的でした。私が行ったのはゴツゴツした岩の多い海岸で、岩手で見た海を思い出しました。
サルヴァドールでは、海の女神「イエマンジャ」に祈りを捧げるお祭りもあるんですよね。ブラジルでは、この「イエマンジャ」をモチーフにした歌も多くあります。
ーほかに「これぞ」という海はありますか?
2年ほど前に滞在した、香港の長洲島でしょうか。船着き場に、個人事業主のものであろう小さな漁船が、数え切れないほどつながれていたんです。
車が通れないほど道幅がせまく、住居も古くて小さな平屋が多くて、「こうした光景はここでしか見られない」と思って印象に残っています。
世界各国を船で巡るような音の旅
ー今回のプレイリストは、どのようなイメージで選曲されたのでしょうか?
にぎやかすぎない、少しだけ寂しさを残した海でしょうか。海では人が溺れることもあるし、飛行機が落ちることもある。明るいだけではなく、怖い面もある。そうした陰陽がどちらもありつつ、少しだけ寂しい、というトーンに寄ったのかなと思っています。
プレイリストでは、10数か国の方の曲を選んだのですが、大西洋に面した国が多めだと思いました。内陸国、エチオピアの方もいます(修道女のピアニスト、Emahoy Tsege Mariam Gebru)。中国の上海は、名前に「海」とあるものの、市街地がそこまで海に面しているわけではなく、その代わりに大きな川(黄浦江)が流れているんですよね。そのギャップは面白いなと思いました。
ー1曲目の33EMYBWは上海のアーティスト、続いてCHIYORI × YAMAAN(日本)とMARIAPEPINOS(チリ)の共作、そしてChelique Sarabia(ベネズエラ)。続くDotorado Proはアンゴラ、Paraadisoはイギリス、Caetano Veloso & Gilberto Gilはブラジル、Cecilia Lópezはアルゼンチン出身と、おっしゃるように大西洋のムードが強めです。
その次の曲のDinamarcaはチリ出身、スウェーデンを拠点とするプロデューサーです。ちなみに、各所にアップされている彼のプロフィール写真は、ビーチで撮られたバックショットです。
ーそしてエチオピアのEmahoy Tsege Mariam Gebruに続き、メキシコのErnesto Hill Olveraの”Granada”。これは、Agustín Laraによるラテン・クラシックの名曲をカバーしたものです。
Ernestoの存在は、YOSHIRO広石さんの自伝『YOSHIRO 世界を驚かせた伝説の日本人ラテン歌手』(焚書舎)で知りました。YOSHIROさんは1965年にベネズエラのテレビ局に招かれたのをきっかけに、北・中南米や旧ソ連など世界各国で名を上げ、いまは日本で活動している方なんですが、彼と競演したと(本書に)書いてあったんです。
Ernestoは幼い頃に失明しながら、ピアニストとしてレストランで演奏する仕事に就いたものの、店に着いたところピアノはなく、ハモンド・オルガンしか弾くものがなかった。しかも、追加のオーダーで「歌ってほしい」と言われたため、苦肉の策で、オルガンのスライドバーを駆使して、人間の声のように微細な揺れを表現する奏法を生み出したそうです。
ーそのほかに特筆すべき曲はありますか?
ウルグアイ出身のLechuga Zafiroによる”Oreja Ácida”でしょうか。彼はダンス・ミュージックのプロデューサーですが、フィールドレコーディング(野外での録音)を取り入れて、それを変調させるなどして音楽をつくっているということです。岩場で波の音を録ったり、カエルの鳴き声を録ったり、プエルトリコやカナリア諸島の洞窟では、その反響特性(エコー)を含めて録音したりもしているとのことでした。
ー最後にリスナーのみなさんへ。このプレイリストは、どのように聴くのがよさそうでしょうか?
船に乗っているような気持ちで聴いてもらえると楽しいかなと思います。移動するときでも、家でつくろいものをするときでも、好きなタイミングで聴いていただけたら嬉しいです。
ー本日はありがとうございました!
TRACKLIST
33EMYBW – Ediacaran Ghost (feat. Marina Herlop)
CHIYORI, YAMAAN, MARIAPEPINOS – WATER (feat. Skinny Dolphin)
Chelique Sarabia – Mare Mare / Por Comer Zopoara / El Pájaro Guarandol
Dotorado Pro – Love Marimbas
Tamba Trio – Beira-Mar
Paraadiso – Blue Marble
Caetano Veloso & Gilberto Gil – Boas Vindas
Cecilia López & Ingrid Laubrock – FABULACIONES NY/DE
Dinamarca – Peri
Emahoy Tsege Mariam Gebru – Evening Breeze
Ernesto Hill Olvera – Granada MXC
山口美央子 – いつかゆられて遠い国 (New ver.)
The Modern Jazz Quartet – The Martyr
Prefab Sprout – Carnival 2000
大野雄二 – ザ・マリン・エクスプレス (From the Album”大野雄二ベスト・ヒット・ライブ at 東京国際フォーラム ホールA 2022.1.28″)
Lechuga Zafiro – Oreja Ácida
T5UMUT5UMU – Sea of Trees
Olga López – Suite Criolla: III. Danza
14 Bis – Todo Azul do Mar

Profile
坂田律子 | サカタ・リツコ
DJでは世界のいろんな地域にあこがれて曲をかけています。
MIX CD⇨ブラジル『Mágica Canária』、バイクエキゾースト『rev』、カリブベース『Mi Dembow』、台湾ムード『A Night In Taipei Vol.3』、世界の空間『velamix』。
うたものバンド「pagtas」でvo,g、「fuelphonic」でバイクエキゾースト(排気音)他、演奏でも活動中。
IG : @pagtas
取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀