「海の未来」を聞く vol.2
佐藤そのみ(映画監督)

大学在学中に故郷・石巻で2本の映画を撮影
日本大学芸術学部映画学科を休学中の2019年、自身の故郷でもある石巻市大川地区で『春をかさねて』という劇映画を撮影。復学後には卒業制作として、今度はドキュメンタリー映画『あなたの瞳に話せたら』を制作し、「いつか地元で映画を撮りたい」という子どもの頃からの夢を叶えた佐藤そのみさん。この2本は21年より30ヶ所以上で行われた自主上映会で注目され、2024年には全国劇場公開も実現した。
『春をかさねて』と『あなたの瞳に話せたら』は、どちらも佐藤さんの故郷を襲った東日本大震災の記憶や、それが人々の関係やそれぞれの内面に与えた変化について描いた、入れ子のように補い合う関係にある作品だ。震災当時中学2年生で、自身は難を逃れたものの、児童74名と教職員10名が犠牲となった石巻市立大川小学校に通っていた2つ下の妹を亡くしたという自身の経験も下敷きとなっているが、震災の悲惨さよりも、登場人物の揺れ動く心の襞や、残された人たちのその後の葛藤が、ドラマとドキュメンタリーのどちらにおいても、瑞々しく繊細なタッチで描かれていることが印象に残る。

『春をかさねて』の主人公・祐未は当時の佐藤さんと同じ14歳で、同じように震災で妹を亡くしたという設定。祐未の家には常に記者が出入りしており、彼女は彼らの取材に気丈に応対する。
「私は祐未とは違ったかな。『あなたの瞳に話せたら』に出てくる只野哲也くんなんかはもっとちゃんと答えていたけれど、私は記者から逃げたりはぐらかしたり、逆に聞き返したりしていました。基本的にどんな取材でも同じことを聞かれるので、自分が成長しなくなっちゃうような、時を止められてしまうなっていう感じがしたんですよね。震災後に地元の夏祭りが復活して、みんなで花火を見てると、カメラが遠くから向けられてる気配を感じるんですよ。見てみると、やっぱりそこには知り合いのカメラマンと記者がいたり。自分はカメラで写真を撮るのが趣味だったので、逆にカメラを向けたりしていました」

物語を書けなくした 圧倒的な現実との対峙
そう話す佐藤さんは、実は震災前にもインタビューを受けたことがあるそう。
「『12歳の文学賞』っていう小学館が主催する文学賞があって、2009年に『キノコの呪い』っていうオカルトホラー小説で賞を取ったので、読売新聞の記者の方が家まで来て取材してくれたんです。その記者の方と映画の公開にあたって再会したんですが、当時の私はあまりに喋らなさすぎて困ったって言われました(笑)」
『キノコの呪い』に限らず、小学校の高学年の頃から小説を書いたり、いつかは映画を撮りたいという夢を抱いたりしていたという佐藤さん。物語作りが大好きだったけれど、「震災という、物語よりも圧倒的な現実がやってきてしまったことで、それを忘れて物語を作ることができなくなってしまった。2015年に大学に入ってからも、私はずっと縛られ続けていましたね」と話す。

「震災の話を私が撮ったら、“妹を亡くしたそのみさんが撮った映画”として評価されてしまうと思っていました。でも結局、何を書いても海が出てくるし、死が出てきてしまう。“私は真正面から震災について、自分について書かないとここから抜け出せないんだな”というのがやっとわかったのが大学3年の時のことでした。それで休学を決意して『春をかさねて』を撮り、卒業制作として『あなたの瞳に話せたら』を撮ったんです」
2作を完成させることでようやく現実と向き合うことができた佐藤さんは、2024年に文化庁委託事業「ndjc(New Directions in Japanese Cinema):若手映画作家育成プロジェクト」でショートフィルム『スリーピング・スワン』を撮影。本作は子ども時代の性被害の記憶に苦しむ20代の主人公が過去の出来事と向き合う、優しさに溢れた作品だ。

震災後も「やっぱり海が好き」
そんな佐藤さんは、震災を経た今もなお「海が大好き」だという。
「私は津波そのものを見てないので、海に近づけないとか、そういう感覚はないんですよね。むしろどんどん海の方に寄っていっちゃう。今は東京に住んでいますが、しょっちゅう鎌倉まで海を見に行ってます。だから、『春をかさねて』で主人公たちが大事な話をするシーンに海が注ぐ大きな北上川が出てきたりとか、『あなたの瞳に話せたら』にも海の風景が出てきたりとかするんですよね。といっても、私の実家は大川地区の一番内陸で、北上川の河口から9〜10km離れた場所にあるので、どちらかというと山育ち。海から4kmくらいのところにある小学校まではバスで通いました。私にとっての最初の海は南三陸町の志津川の海。毎年、子供会で神割岬キャンプ場っていうところでキャンプをして、翌日は志津川の海水浴場で遊んでいたんです。楽しかったですね。私は泳げないんですけど(笑)」

もうひとつ、佐藤さんにとって忘れられない海の思い出がある。
「大川小学校の児童は、6年生の時に毎年授業でカキの養殖体験をするんです。北上川の河口あたりに長面浦っていうのがあるんですけど、ここはカキの養殖が有名で、そこには大川小学校用の養殖いかだが置かれていたんです。私たちが行ったのは真冬の2月とかだったかな? みんなで船に乗って、作業している様子を見せてもらって、その後、殻剥き場の手前あたりでカキを焼いてもらって、大きなカキを10個くらい食べました。贅沢な授業ですよね。震災後、長面浦のカキの養殖も一時はダメじゃないかと言われていましたが、ちゃんと復活して、今も養殖場は動いています。私の同級生のお母さんたちが新しいカキのソースを作って販売して、それで賞を獲ったりもしているんですよ。海にいろいろなものを奪われてしまったけど、海があったからこそ、またこうやって働きに戻ってくる人たちがいて、新しいものが生み出されているんです」

残すためにすること 変わっていくこと
佐藤さんが影響された映像作家のひとりにクリス・マルケル(1921〜2012)がいるが、その代表作『サン・ソレイユ』(1983)は、マルケルが日本、アフリカ(ギニアビサウ、カーボベルデ諸島)、アイスランド、パリ、サンフランシスコで撮影した映像と他の映像を組み合わせた実験的なもの。当時のマルケルの意図が何にせよ、今観ると、失われてしまった風景のスナップ集のようにも感じられる。佐藤さんにそのような映像の役割について尋ねると、「いつかここはなくなってしまうかもしれないから残したい、という感覚は常にある」との答えが返ってきた。
「今しか撮れないものってあるし、そこで生きている人たちの姿もそう。それを映画に収めておきたいという気持ちは持っています。あの人はこういう顔をして、ああやって楽しんでいたんだとか、そういうのを映像として残せることはすごくいいことだと思う。『春をかさねて』には地元のおじいちゃんやおばあちゃん、昔の私を知っている人たちがたくさん映っています。もちろん、ああいう撮り方はもうできないだろうけど。一方で、ものとして残すということをどう考えるかはなかなか難しい。大川小学校を震災遺構として残すかどうかの話し合いをしていた時、私の中には“未来の人がこの校舎を見てくれることに意味がある”という気持ちと、“(卒業生である)自分の気持ちを落ち着かせるために残したいだけじゃないか”という気持ちの2つに割れている感じがありました。今もあの場所には毎日誰かが防災学習として語り部の話を聞きに来て、涙を流して帰っていきます。でもその人たちもいつかは忘れるだろうし、これってみんなが望んでいたことなのかなって」

個人的に未来に残したいものは、「3・11の当日に妹が着ていた、私のお下がりのシャツワンピースの紐です」と話す佐藤さん。
「妹は津波に飲まれちゃったけれど、海までは引きずられず、学校の近くの山の麓で他の何人かの人たちと一緒にすぐ見つかったんです。震災から4日後には対面できて。服も全部着たままでした。その服自体は今も実家にあるんですけど、この紐は津波に飲まれてない。学校に行く時に家に置いていったんでしょう。結んで置いてあったのを私が見つけて、東京へもポーチに入れて持ってきた。無くさずに持っていたい、残したいものですね」
そんな佐藤さんに、“海の未来”について尋ねると、「そのイメージは私の中では曖昧なもの」との答えが。
「だから、それについては話せない。代わりに個人的な願望みたいなものになりますけど、地元じゃなくてもいいから、いつか海のそばに家を構えたいです。あと、作品とともに海を越えたい! 『スリーピング・スワン』が香港の「Fresh Wave International Short Film Festival」っていう映画祭で上映されたし、『春をかさねて』と『あなたの瞳に話せたら』はスイスと韓国で上映してもらえた。日本の人にしか伝わらない話だと思っていたのに、海外の方もすごく共感してくれたので、これからも作品を携えていろんな国に行きたいですね」
「いずれは海にまつわる作品を作ってみたいです」と話す佐藤さんは、現在、新しい映画の企画を構想中とのこと。「実現するかはわからないのですが、またいつかは地元で撮りたいなと思っています。考えてみれば、『春をかさねて』って、海があまり出てきてないんですよね。いつかは劇映画で、地元の海をちゃんと撮りたいんです」

佐藤そのみ(さとう そのみ)
1996年宮城県石巻市出身の映画監督。日本大学芸術学部映画学科を休学中に東日本大震災での経験を基にした劇映画『春をかさねて』(2019)を制作。卒業制作のドキュメンタリー作品『あなたの瞳に話せたら』(2019)は東京ドキュメンタリー映画祭2020短編部門準グランプリ・観客賞を受賞。2024年には「ndjc:若手映画作家育成プロジェクト」の一環として短編『スリーピング・スワン』を制作。
お知らせ
『春をかさねて』『あなたの瞳に話せたら』
上映情報
<東京都>
■企画展「語りにくさを語る―大川小をめぐる15年の対話」にて
上映日時:
【1回目】2026年3月14日(土)11:15~12:45
【2回目】2026年3月15日(日)11:15~12:45
【3回目】2026年3月22日(日)12:00~13:30
会場:東京工芸大学中野キャンパス
主催:東京工芸大学インタラクティブメディア学科「アート&メディア研究室」
<詳細はこちらより>
<茨城県>
■シネポートシアターMITO vol.100 100th ANNIVERSARY SCREENING
上映日時:2026年3月7日(土)16:00〜
会場:Café+zakka+gallery Minerva(茨城県水戸市宮町2-3-38 ホテル水戸シルバーイン2F)
主催:310+1シネマプロジェクト
<詳細はこちらより>
<宮城県>
■Night BOOKs vol.1 night cinema
日時:2026年3月8日(日)開場17:00〜/上映19:30〜
会場:8BOOKs SENDAI(宮城県仙台市太白区八本松1丁目15-25/地下鉄長町駅より徒歩約10分)
予約:不要(途中入退場可)
主催:8BOOKs SENDAI
■映画フォーラム ” the blue print “
上映日時:
2026年3月7日(土)16:00〜『あなたの瞳に話せたら』
2026年3月8日(日)10:00〜『春をかさねて』
会場:シアターキネマティカ(宮城県石巻市中央1-3-12)
主催:シアターキネマティカ/石巻劇場芸術協会
<詳細はこちらより>