
ミュージシャンやDJが、海をテーマにした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.18は、東京を拠点に活動するトラックメイカーのPLASTICMAIさんが登場。毎日の登下校では砂浜に面した道を30分ほど歩くなど、幼いころから海を身近に感じてきたといいます。「海の喜怒哀楽」をテーマに、楽曲をセレクトしていただきました。
生き物と死の気配が漂う砂浜
ーPLASTICMAIさんは、海と縁が深いんですね。
実家が、山口県下関市のちいさな半島にあるんです。あらためて地図で見てみると、周りがほとんど海で、呑み込まれそうですこし怖いですよね。
お父さんは釣りが好きな人で、釣り餌になるちいさなカニを一緒に捕りに行っていました。石をめくって、隠れているカニをひたすら集めていたんです。通学路が海沿いだったこともあり、砂浜に立ち寄ることも日常でした。
ー砂浜では、何を見ていたんですか?
海の様子はもちろん目に入ってくるんですが、漂流物をよく見ていたんです。いろいろな国の洗剤のごみ、ボロボロになった医療機器、あと、生き物が好きで見ていたんですが、砂浜にはその死体も流れ着いていました。「何の骨かな?」「何の貝殻かな?」と、ひっくり返してみたり、気に入ったら家に持ち帰ったりしていました。
ー海沿いで、ほかに感じたことは?
その時々で、いろんなにおいがしてきますよね。海藻に近いような潮のにおいもありますが、印象に残っているのは、水産物の「競り」のあとに漁港から漂ってくる腐敗臭。加えて、海沿いではいたるところで生き物が死んでいて、焼いたエビやイカの塩辛のようなにおいもする。そうした臭気が混ざっていたような記憶もあります。
ーPLASTICMAIさんにとって、海は、生き物と死の気配が色濃いものなんですね。
まさに、そんな感じです。
「海の喜怒哀楽」に自分を重ねて
ーそうした背景もありつつ、このプレイリストは「海の喜怒哀楽」をテーマに制作していただきました。
私にとって、海は生活そのもの。魚も毎日、食卓に並びますし、遊ぶのも、怒られて家を出て行く先も海で、いつ何時も海がすぐそばにある暮らしでした。なので、私が見た客体としての「海の喜怒哀楽」なのか、海とともにある「私の喜怒哀楽」なのか、海と自分との境界が曖昧なようにも思っています。
ー全体の流れとしては、喜怒哀楽の順番ですか?
そのとおりで、喜怒哀楽の順に、大きく4つのセクションに分けています。なかでも、「怒」の選曲が難しかったですね。「海の怒り」といっても、荒々しい波だけでなく、内側にウーッと渦巻くような怒りもありますし。
ー1曲目は、YAMASUKI “YAMASUKI”。1971年にリリースされた楽曲ですが、これは「喜」ですよね。
イメージとしては「収穫の喜び」です。フランスとベルギーを出自とする2人組のユニットなんですが、日本語で「うれしい!」と力強く歌っています。それが、海の恵みのようだなと。人間にとっては「魚が獲れてうれしい」、海にとっては「恵みがあってうれしい」というようなエネルギーを感じますね。
ー2曲目は、MALPHINO “Strange Salsa”。
MALPHINOは、架空の熱帯の島を拠点に活動しているという設定の、異国情緒あふれるバンドで、この曲は、リズムも軽やかなサルサです。ジャケットも、海や山などが描いてあるようにも見えますね。同じアルバムには、”Octopus”という曲も入っています。
ー3曲目のAfrican Head Charge “My God”も「喜」ですか?
「喜」です。すこし暗い曲だと思われそうですが、じわーっと上がっていくような恍惚感があるように思います。チャプチャプした水の音からはじまる、レゲエ/ダブの曲でもあり、そうした点で海のイメージも強いです。
ー4曲目は、COLLOCUTOR “Gozo”。
この曲は、アフロ・ビートとモード・ジャズが融合したような抽象的なテイストで、かっこいいなと思って。パーカッションのアンサンブルで気分も高揚しますし、自然のたくましさのようなものも想起させられます。
ー5曲目は、ICHI “Hippo + 47”。
ICHIさんは、自作楽器を使って曲をつくっている方です。タコ、ウミガメ、オットセイなど、生き物の名前を英語と日本語で並べていく、かわいらしい曲ですね。小学生のころに海を見てウキウキしていたイメージに、ピッタリだと思って選びました。
ーここで「喜」は終わり、次の曲はThe John Betsch Society “Earth Blossom”。1974年に発表されたスピリチュアル・ジャズの名演で、「怒」のセクションに突入します。
抽象的で美しい曲なんですが、じわじわとラウドなパートが出てきて「怒」へ向かっていきます。パーカッシヴなテイストは「喜」のセクションから引き継ぎつつ、ムードを変えました。
ーLeevisa “Avant Garde Challenge”も「怒」ですね。
Leevisaは韓国出身のアーティストで、この曲は2022年に発表されたものです。シンプルながら、沸々したものが下からこみあげてくるようなリズムの楽曲ですよね。海底にもぐっていきながらも、気泡が海面のほうに上がっていくようなイメージもわきました。
ーそういう沸々とこみあげてくる怒りって普段、感じますか?
あまり怒ることはないんですが、この次の曲あたりから、最近うまくいかない生活への怒りが出てしまいました。John Tremendous “すき家レディオと俺”では、「この人生には何の意味があるんだ」というような、鬱屈した気持ちを選曲であらわしています。
ーそして、伝説のバンド「アーント・サリー」のボーカリストであるPhewが、ギタリストの山本精一らと結成したパンクバンド「MOST」による“小市民パンクス”。
ギターもキレキレだし、歌い方も最高にかっこいいです。「好きなものはグラタンのおこげ」という歌詞もいいですよね。描かれているのが等身大の暮らしであることも、実家の近くにある海を思い起こさせるのかなと思いました。
ーこれらの選曲について、怒りの対象は?
「あいつが」「世の中が」と言ってしまいそうになる、ふがいない自分への怒りかもしれません。先ほどもお話ししたように、荒々しい波ではなく、海のなかで渦巻くような怒りを想定しています。
ーあぶらだこ “象の背”も「怒」ですか?
そうですね。「貧困の翼を靡かせて歩く象の群れの声」「もっと自由の偽善の嘘で楽しく暮らしたかった」など、歌詞がすこし諦めモードというか、「哀」に片足を突っ込んでいます。
ーその次は、Bogdan Raczynski “Kimi Wa Tsumannai, Boku O Iranai”。本格的に「哀」のセクションに入りました。
Bogdanは、IDM(Intelligent Dance Music。実験的な要素が強いダンス・ミュージック)やドラムンベースのプロデューサーとして知られていますが、かつて日本の美術学校に通っていた時期があるんです。この曲では日本語で「なんで、ぼく◯◯◯してないの」というフレーズを繰り返し、寂しそうに歌っています。子どものころに親に怒られて、家を飛び出して、海辺をグルグル散歩していたときのイメージで選びました。
ー続けて、The Gasman “Horses on Ice”。
2003年にリリースされた電子音楽の楽曲で、ひとりでボーッと海を見ているような音像です。私の身近にあったのは、きれいなビーチではなくて、ごみが多かったり、釣り糸が絡まっていたり、バーベキューの残骸がそのままドサッと残されていたりしたので、「吹き溜まりのような扱いを受けるんだ」と、どうしようもない自分の状況と重ねたりもしました。
ーそして、Jacula “Jacula Valzer”。
海のなかに沈んでいくような「哀」のイメージで選びました。1972年にリリースされた、イタリアのプログレッシブ・ロック・バンドによる物悲しい曲なんですが、フックになるような明るい箇所もあって、それがよりいっそう「哀」を深めているように感じています。一方で、その明るい部分が「楽」のムードをすこしずつ増やしていくようにも思います。
ーThe Sweet Enoughs “Cerberus”は、ジャケットにも湾の写真が使われていて、波の音からはじまる、トロピカルな楽曲です。「楽」のセクションに入りましたね。
私にとって、心地よかった海の思い出と重ね合わせた選曲です。暑すぎもせず、寒すぎもせず、風がちょうどよく吹いていて、海自身も楽しんでいるかのような想像がふくらむ曲ですね。
ーイギリスのロック・バンド、The Jamの“English Rose”も波の音からはじまります。
晴れた日に聴きたい、爽やかな曲です。今回、海をテーマとしたプレイリストをつくるにあたって、できるだけ波の音に頼らない選曲を心がけてきたんですが、実際に入れてみたら、とてもよく合うということに、いまさらながら驚いています。
ー最後の曲は、山本精一 “もの投げるなや”。
「ものは投げたら壊れる」という当たり前のことを歌っているんですが、そういう意味では、どこかドライで楽観的な感じもしますよね。加えて、「怒」「哀」を引きずって、海に「もの投げるなや」という意味も込めました。漂流物や海洋ごみをよく目にしてきたので。
ーリスナーのみなさんへ、最後にひと言お願いします。
「海の喜怒哀楽」というテーマで選曲しましたが、ジャンルを限定せず、オールジャンルの楽曲を散りばめました。聴いてみて、「これは自分の海の気分にピッタリだな」と思えるような曲を見つけてもらえたらうれしいです。
ーみなさま、プレイリストをお楽しみください!
TRACKLIST
Yamasuki – Yamasuki
MALPHINO – Strange Salsa
African Head Charge – My God
COLLOCUTOR – Gozo
ICHI – Hippo + 47
The John Betsch Society – Earth Blossom
Leevisa – Avant Garde Challenge
John Tremendous – すき家レディオと俺
MOST – 小市民パンクス
あぶらだこ – 象の背
Bogdan Raczynski – Kimi Wa Tsumannai, Boku O Iranai
The Gasman – Horses on Ice
Jacula – Jacula Valzer
The Bad Examples – Die 24 Stunden Von Beguine
The Sweet Enoughs – Cerberus
Bogdan Raczynski – MyLovelLove 1
Beach House – Space Song
The Jam – English Rose
Slapp Happy & Henry Cow – Desperate Straights
山本精一 – もの投げるなや

Profile
PLASTICMAI | プラスチックマイ
東京都在住。トラックメイカー/料理人/なんでもやさん。
音楽レーベル「conatala」構成員。
ケータリングを基軸とした「バビロン飯店」では、音楽イベントをメインに活動。
過去にはNHK Eテレアニメーションでのメイン主題歌、Amazonプライム配信『星の王子ニューヨークへ行く2 』歌唱、「トリプルファイヤー」でのゲストボーカル、時と場合によっては、DJ、イラスト、文筆業もやってます。一緒に暮らしてる猫の名前はBubinga Dread。
IG : @plasticmai
取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀