くまちゃんシール / 潮騒しおさいRADIO vol.06

ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。

vol.6は、neco眠る、Summer Eye Sound Syndicateの鍵盤奏者としても活躍するアーティスト「くまちゃんシール」こと、おじまさいりさんが登場です。干潮で陸と海が入れ替わる場所ーー『潮間帯』と題したカセット・テープ作品を、ギタリストの宮崎良研さんとの共同制作でリリースされてもいる方です。「海・光」と題して、楽曲をセレクトしていただきました。

散歩や電車で目にする「海・光」

ーくまちゃんシールさんは、兵庫県丹波篠山市の出身で、現在は神奈川県平塚市に在住。海まで歩いていける場所に住んでいるそうですね。

平塚の前は、隣の藤沢に住んでいたんです。藤沢には、江の島や水族館、観光地らしい華やかな海水浴場もあります。藤沢と比べると、平塚はそこまで人が多くないのと、手ぶらで散歩してたり、ボーッと海を眺めてたりする地元の人たちが多いですね。大磯の海岸のほうまで歩いていくと、丘(湘南平)も見えるし、川(花水川)が流れていて水鳥もいます。

ーよく散歩しているんですか?

散歩にはよく行きますね。海辺を歩きながら音楽を聴くことも多いので、今回のプレイリストは、散歩のBGMのようなものにもなったかもしれません。

散歩は、夕方、日が落ちる前に出かけて「暗くなったから帰ろう」というときもあれば、「夜になったから海に行ってみよう」というときもあります。朝に散歩することはあまりないですが、そうしているあいだも、波は年中無休でずっと動いていることにも驚きます。

ー貝殻を収集されているとも聞きました。

藤沢に住んでいたときは、貝殻をよく拾いに行ってたんですよ。こんな感じで集めてて(と言って、仕切りのあるコレクション・ケースを取り出す)。

ーおお! けっこうな種類の貝殻を、キレイに保存していますね。

貝細工もつくってみたいんですけど、なかなか難しくて。『かいのどうぶつえん』(グラフィック社)という貝細工の本を買ったんですが、この本には、編者の角田元さんによる「貝殻がどの海岸に落ちているか」がわかる分布図も載っています。角田さんは、葉山(神奈川県)で展示も開催されていて、見に行ったら、物量も内容もすごかったです。

ーそうした海との関わりを経て、「海・光」というテーマで選曲していただきました。

よく海辺に散歩に行くけど、「何を見てるかな」と思ったら、太陽が海に反射した光、夕日や夕闇、夜になれば星、そして海に映った月を見ている気がして、そのままタイトルにしました。

「光」といっても、遠くから眺める、遠景のイメージもありますね。日中、小田原に向かう電車に乗って海を見ると、太陽の光が海に反射して、本当にキラキラしているんです。

海のキラキラした感じ、砂や砂利のザラザラした感じ、夜の海……そうした感触に近いと思う曲を集めました。プレイリスト全体としては、まだ明るい時間帯からはじまって、暗くなって、朝が来る、という流れかなと。

ー1曲目は、菅谷昌弘 “空にとけるサーカス”を選んでいます。

すごくいい曲だと思って、アルバム『海の動物園』から選びました。穏やかな曲ですが、途中からパーカッションの音も入ってきます。散歩していると気分も高揚していくので、そうしたものが反映されたのかもしれないですね。

ー次の曲、COLA REN “Heart Shape Mole”の旋律には、アジアらしい郷愁を感じます。

COLA RENは、中国・広州拠点のプロデューサーですね。伊豆白浜海岸を一望できる「ホテル伊豆急」でのフェス「FFKT」や、京都のクラブ「West Harlem」での公演などで、何度か来日されています。

ー3曲目“Nexus On the Beach”のRoberto Musciは、アジアやアフリカなど非西洋音楽の伝統的な手法も取り入れているそうです。4曲目のOmni Gardens “Cool Off”は、水がポコポコ鳴る音や、ミニマルな3連譜が繰り返され、民族音楽のようなトランス感覚を覚えました。

散歩しているとハイになるので……あと、海辺を歩いているとき、かなり日光を浴びるので、自然と「太陽の感じ」が入ったのかもしれません。

ー5曲目には、Ai Aso “Kamitsure No Ookina Mizutamari”を選んでいます。

この曲から、色合いとしては、薄暗くなっていく海のイメージです。海が暗くなっていく時間、私は、やわらかい女性の声が聴きたくなるので、ここに選んだんだと思います。

ー8曲目、”Onde Cosmique”のVague Imaginairesはフランスの方で、日本語に訳すと「想像の波」というアーティスト名義だそうです。

まさかの! それを知らず「夜の海っぽい」という理由で選んでたけど、音って、ちゃんと表せているんですね。ポリフォニー(複数の異なる旋律が同時に進行すること)で、それも波っぽいなと。これも暗い海のイメージです。

ーAfrican-American Sound Recordingによる9曲目は、雨が降る、夜の海のようにも思えます。

この曲は”returning the situation on its side”というタイトルもいいなと思って……「ひるがえる」みたいな意味でしょ? 暗い時間になると、海辺を散歩していても内省的になってくるから、そういう気分を壊したくないなと思って、この曲を選んだように思います。

ー次の曲は、横田進の”Sprouting Symphony”。

横田進さんの曲は、散歩するときによく聴いていて、この曲は外せませんでした。このあたりから朝の時間帯に差しかかって、明るくなっていくイメージです。

ー最後のYo La Tengo “Little Eyes”は、青春時代を想起させるような爽やかな曲ですね。

この曲は『Summer Sun』というアルバムに入っていて、CDも持っててよく聴いてきました。盤面にビーチボールの絵が描かれているので、海のイメージが強くて。江の島「オッパーラ」(海が一望できる老舗のクラブ)からの、朝帰りの感じもあるかなと。

ー最後にリスナーのみなさんへ。このプレイリストは、どういうイメージを持って聞くのがよさそうでしょうか?

お土産ものの、砂が入った小瓶あるやん? あれって海を感じるし、そういう雰囲気なのかなと。みんながみんな、いつでも好きなときに海に行けるわけではないので、「インスタント海」のようなものになればと思って、このプレイリストをつくりました。

ーみなさま、プレイリストをお楽しみください。本日はありがとうございました!


TRACKLIST

菅谷昌弘 – 空にとけるサーカス
COLA REN – Heart Shape Mole
Roberto Musci – Nexus On the Beach
Omni Gardens – Cool Off
Ai Aso – Kamitsure No Ookina Mizutamari
Park Bird – First Step
Interior Soundscapes – Swimming Between the Sheets
Vague Imaginaires – Onde Cosmique
African-American Sound Recording – returning the situation on its side
横田進 – Sprouting Symphony
Taylor Deupree – air
Laurie Torres – Carnets
aus & The Humble Bee – Below the Surface We Shimmer and Shine
Yo La Tengo – Little Eyes


Profile

くまちゃんシール

1987年丹波篠山市生まれ。平塚市在住。
CASIOトルコ温泉、neco眠る、summer eye soundsyndicateのキーボーディストとして活動している”おじまさいり”のソロ名義。
2017年『朝昼兼用』hoge tapesより1stカセットリリース。
2020年 1st ep『焚き焚き』、2021年2nd ep『まにまに』bandcampにてリリース。
2023年 EM Recordsより1stアルバム『くまちゃんシール』リリース。
2025年 高円寺のオルタナティブスペースHoiPoiのBGMとしてthe hatchのギターリスト 宮崎良研との共作『潮間帯』をカセットテープリリース。

IG : @sairipkny

取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀