ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.3は、電子音楽家でDJのテンテンコさんが登場。たぬきのお祭りを想像した音楽イベント「ぽんぽこ山」を主催するなど、独自の活動でも耳目を集めています。
テンテンコさんは北海道出身。幼いころは海を眺めながら過ごし、流氷の音を聞いたり、巨大な魚を目にしたりすることもあったそうです。「水平線の向こう側」をテーマに楽曲をセレクトしていただきました。
水平線の先の「時空がゆがむような海」
ー海の近くで暮らされていたそうですね。
お父さんの仕事が漁業関係で、海洋研究をしていたこともあって、北海道の海がある町をだいたい2年おきに転勤して回っていました。網走、釧路、函館、余市町……小学6年生のときにお父さんが単身赴任になったので、それまでの間の話ですけど。
ー北海道を囲む4つの海(日本海、オホーツク海、道東・道南太平洋)をすべて見られてこられたと。
そのなかでも、オホーツク海がいちばん印象深かったです。網走の近くの町に住んでいたんですけど、流氷がやってくるんですよ。私がいたころでも(温暖化で)だいぶ薄い氷になっていたみたいですが、夜になると「ゴゴゴゴ」って音がするんです。地響きみたいで、ほんとに「地面が(海から)やってくる」ようでした。あと、流氷にはアザラシも乗ってくるみたいです。かわいいですよね。
ーそこでの生活はいかがでしたか?
学校生活があまり得意じゃなくて、その町にいたときは海を眺めるだけの時間も多かったんです。その時のことは強く印象に残っています。海沿いで、巨大なアリの巣をずっと見てて、アリたちが巣のなかに持っていくものを与えて、私もそのアリの巣の一員みたいな気持ちになったり……学校でのことよりも、ひとりで過ごした時間のほうが覚えていますね。
ー海辺にいるのが日常だったと。ただ「ビーチでワイワイ」という雰囲気ではなさそうです。
オホーツク海はプランクトンが豊富で、栄養が濃い海なんです。海水は澄んでないし、海に潜ると目の前をぬら〜っとした巨大な魚が通ったりする。曇りがかっていた記憶もあって、海には怖い一面もあると思っています。オホーツク海は栄養が濃いぶん、生ぐささも強烈にありましたし、その影響で、私はいまでも生モノの海鮮だと苦手なものがけっこうあるんです。
ーそうした海との密な時期を経て、現在は東京で暮らすテンテンコさん。今回は「水平線の向こう側」というテーマで選曲していただきました。
ずっと海を見ていると、その先の「ここじゃない場所」を想像させられる気がしています。目の前の景色とは別のものを見せてくれるのが音楽の楽しさのひとつだと私は思ってて、プレイリスト全体を通して「時空がゆがむような海」の曲を選んだように感じています。
THE RESIDENTSの”DISKOMO”は、アルバム『ESKIMO』の表題曲をディスコ・バージョンにアレンジした楽曲です。『ESKIMO』は、イヌイットの寓話というコンセプトで(1979年に)リリースされました。ただ、いわゆる民族音楽を忠実に再現するのではなくて、自分たちのやり方でシンセサイザーを弾いたり、パーカッションを叩いたりして曲をつくった結果、どこでもない架空の民族音楽ができあがっています。かなりグニャッとしていますよね。
ー現在、こうした作品は「文化の盗用」の議論を呼び込むこともありますが、本作にはCMや広告のスローガンが変調して散りばめられており、彼らによる、大衆文化による異文化消費や商業主義をよしとしない、強烈な皮肉の表現だと熱心なファンには受け取られています。
1曲目の“海ヤカラ”は沖縄の民謡ですが、東京出身で、復帰前の沖縄を舞台とした映画『パラダイスビュー』にも出演した戸川純さんが歌うことで、どこでもない架空の沖縄になるじゃないですか。Jonathan Richmanの”The Sweeping Wind (Kwa Ti Feng)”は、中国の伝統曲のカバーです。現地の人がそのまま演奏したものも好きなんですが、違う場所から表現をすると、ねじれが生まれてファンタジーも入ってくる。それが面白いなって思って。
ー細野晴臣さんの曲も”ESASHI”、”Arizona Analyzer”と2曲ほど選ばれています。
自分は北海道の冷たい海を見ていたけど、細野さんの曲はあたたかい海のイメージがあって好きです。トロピカル三部作(『トロピカル・ダンディー』『泰安洋行』『はらいそ』)もそうですが、細野さんは、世界各地の音楽への憧れを表現している面もあるように感じています。
MARTIN DENNYの”QUIET VILLAGE”は、おもにアメリカの人が南国への憧れを表現した「エキゾチカ」の代表曲ですが、よりねじれさせるために、MOOGのシンセサイザーで弾かれたバージョンを選びました。著名なミュージシャンが、売れた曲をまた別のアレンジで新録したものも好きなんです。Dick Daleの“Miserlou”も、元はサーフ・ミュージックで有名な曲ですが、選んだのは30年ほど経ってから録られた、ゆっくりしたエキゾチックなバージョン。イケイケな海ではなく、密林に連れて行ってくれるみたいで、同じ曲でも景色が変わるなって思います。
ープレイリストでは、北海道の曲も沖縄の曲も共存していて、気持ちよく聴けました。チャント(かけ声)的な語感のよさがありますね。
MAREWREWやOKI DUB AINU BANDはアイヌにルーツを持つ方たちですし、憧れで表現した曲とは違う方向性ですが、MAREWREWの”Sonkayno”は、ロープを使ったアイヌの遊び歌だそうです。
1曲目の“海ヤカラ”に出てくる「ドンドン」という言葉は「ドンドンガマ」という洞窟を意味するらしいんですけど、諸説あって、その「ドンドン」はロンドンから来ているという説もある。勝手な解釈ですが、こうして、何を言っているかが明確でないと、ここではないどこかという意味での”あの世”の感じが出るのかもしれないと思っています。
ー曲名に「チャント」と入った曲もセレクトしていただきました。
Walt Disney’s Enchanted Tiki Roomの”Hawaiian War Chant”ですね。原曲はハワイの歌ですが、ディズニーが『Tiki Room』(アトラクション)のために編曲してカバーすることで、どこだかわからない架空のハワイが完成します。なんせ鳥の大群や柱が歌い出したり、建物のなかで嵐が来たりしますからね。
ープレイリストの最後には、新崎純とナインシープスの”かじゃでぃ風節”も挙げていただいてます。
武末亮さん(ギタリスト)が動画サイトで見つけたのをきっかけに、エム・レコードから公式リリースされたと教えてもらったこの曲は、極上の海サウンド。琉球古典音楽をジャズ畑の新崎純さん、人間国宝の照喜名朝一さんら13人で編成されたビッグバンドで演奏したもので、スローさ加減もすごいです。
水平線を見ていると、ここではないどこかという意味での”あの世”を思うことにもつながってくると思うんです。それが究極に詰まっている曲では、という気がしています。天国に昇っていくような感覚というか。とにかくゆっくりジワジワと変化していく展開がたまりません。ぜひ、大音量で聴いてほしいです。
ー最後にリスナーの皆さんへ。このプレイリストは、どのように聴くのがよさそうでしょうか?
怪しかったり、キレイだったり、楽しかったり、怖かったりする海の景色を思い浮かべながら聴いてほしいなと思っています。たとえば、奥からも右からも「あ、なんか来たぞ!」とか見えてくる曲もあるし、景色や情景を思い浮かべて聴いてもらえたら、笑えてきたり、怖くなったり……きっとより楽しめると思います。
ー本日はありがとうございました!
TRACKLIST
戸川純ユニット – 海ヤカラ
Jonathan Richman – The Sweeping Wind (Kwa Ti Feng)
WATER MELON – SLOW BOAT to MARS
Dick Dale – Miserlou (From the Album “Tribal Thunder”)
MAREWREW – Sonkayno
OKI DUB AINU BAND – HINA KAMUY
滞空時間 – 福田海山小囃
ASA-CHANG&巡礼 – 海峡
THE RESIDENTS – DISKOMO
WHITE NOISE – LOVE WITHOUT SOUND
MARTIN DENNY – QUIET VILLAGE (From the Album “Exotic Moog”)
HAT – Arizona Analyzer
細野晴臣 – ESASHI
Walt Disney’s Enchanted Tiki Room – Hawaiian War Chant
新崎純とナインシープス – かじゃでぃ風節

Profile
テンテンコ
東京を拠点とするエレクトロニクスミュージシャン、DJ。ジャンクでストレンジ、そしてポップさを兼ね備えた唯一無二のミュージックマシーン。MOOGシンセサイザー、リズムボックス、電子音楽に魅せられて、楽器は何も弾けないが、見様見真似で始めた、ヘンテコ電子音楽は、見るものを困惑と幻想の世界へと誘う。たぬきがやっているお祭りがコンセプトのイマジナリーパーティ「ぽんぽこ山」主催。「ぽんぽこ山」は、幡ヶ谷FORESTLIMITにて、2023年11月より不定期開催中。2025年夏からは、高円寺DAIBON、鳥取夜市、千葉真野寺での観月会、と東京を飛び出し、お祭りやリアル里山に近い場所での開催も。テンテンコソロ作品は、TAL(DE)より『An Antworten EP』、Couldn’t Care More(DE)より『The Soft Cave』をリリース。伊東篤宏とのユニットZVIZMOでは、Black Smoker Records(JPN)より『ZVIZMO』『ZVIZMO Ⅱ』2作品をリリース。
IG : @tentenko_ooo/
取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀