H. Takahashi / 潮騒RADIO vol.02

ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。

vol.2は、作曲家・建築家で、レコードストア「Kankyo Records」(東京・三軒茶屋)を運営するH. Takahashiさんにセレクトをお願いしました。

2010年代以降、アンビエント・ミュージックの旗手として世界各国から支持を集め、ソロ名義では『Sea Meditation』、参加するユニットのAtorisでは『Sea & Forest』と、海をテーマとした作品もリリースされています。ヒトがDNAに還っていくような、没入感たっぷりのアンビエント・ミュージックを中心に選曲していただきました。店主を務める「Kankyo Records」にて、ポプリの香りが漂うなか、お話を伺っています。

大海原、DNA、土着的なアンビエント

ー幼い頃、海とはどのように接してこられましたか?

私は(内陸の)町で育ったので、家の近くに海がなかったんです。いちばん身近にあったのは、工業地帯の海でしょうか。湾岸エリアに工場が立ち並び、空気もあまりよくなくて、当時は海に対して、あまりポジティブな印象を持っていませんでしたね。

いま、プロデューサーとして海の音をつくる(電子音などでイメージを表現する)のは、「憧れ」なのかもしれません。沖縄や海外へ旅行したときにはキレイな海を見て、そこから得たイメージもありますが、自分で音をつくるときには「自分がいたい場所」「向かっていきたい場所」「とどまりたい場所」というのがメインになってくるので。

ーKankyo Recordsも「憧れ」をベースにした提案をされているのでしょうか?

Kankyo Recordsは(個人的な「憧れ」というよりは)もう少しドライで、住環境でのリスニングをテーマに、アンビエントを中心としたレコード、CD、カセットなどを取り扱っています。ライティングや音響も含めて、空間をつくる要素を提案している、という形です。

ー店舗では、ADAM Audioのスピーカー「D3V」で音楽を流しておられます。

これは「モニター・スピーカー」と呼ばれる、音をよく”見る”ためのものなんですけど、それでリスニングしてみるのも面白いのではないかと思っています。

ー視覚的に音を見る、と。

適切な位置にスピーカーを設置して、耳の位置もきちんと合わせると、音を三次元的にとらえられるんですよ。「このあたりに音がある」というのが、わかるんです。

そうした音の体験のために、中目黒で「Home Listening Room」というリスニングルームも運営しています。よりよく音を見てもらえるように、壁には吸音材を用いて、音の反射を抑えるなどしています。ちなみにカーペットは、デンマークの浜辺で回収された網をリサイクルした製品を採用しているんです。音楽鑑賞のワークショップも開催していますよ。

ー今回は、そうしたリスニングにも適したアンビエント・ミュージックを中心に選曲していただきました。そもそも「アンビエント」とは、どのような音楽を指すのでしょうか?

すごく簡単に言うと、BGMのようなものでしょうか。駅の構内に流れる音楽、デパートで流れるBGM。作曲家のBrian Enoさんが「アンビエント」という言葉を広めたんですけど、彼がリリースした道標的な作品『Ambient 1 : Music for Airports』は、空港のための音楽なんですね。

その延長線上にあるものが、現在のアンビエントだととらえられていると思います。広義では、ランウェイのショーで流れる音楽もアンビエントだと言えますし、その場に適した音をデザインすることに近いのかなと。

ー今回のプレイリストは、どのような海をイメージされたのでしょうか?

海をイメージした、ふんわりしたメロディの曲というよりは、もう少し土着的で、生々しい海をすぐに想起できるような曲を選びました。身体から湧き出てくる、昔から人間のDNAに刻み込まれているような音。西洋的な雰囲気というより、実験的なものと民謡のようなものの中間。遠くから眺める海というよりは、大海原のイメージが強いです。

ー1曲目はRoméo Poirierの”Statuario”です。

Roméoさんは、もともとプールのライフセイバーとして働いていた人なんです。水が好きだったんですね。水に潜ったときの音の感覚を、自身の作品で再現していると話していました。本作では、水中に防水スピーカーを沈めて音を出し、それをハイドロフォン(水中マイク)で録音したりもしているそうです。水に潜っていく感覚や、海に入っていくイメージもあり、1曲目にこの曲を選びました。

ー続く2曲目、そして後半にも氏の手がけた曲を選んでいただいています。

2曲目のKumi Takaharaさんの”Sea“は、Roméoさんが依頼を受けてリミックスを手がけたと聞きました。新しいものを足さず、もともとある彼女の曲の要素を編集したとのことです。Roméoさんは、日本の文化では、京都の「鶯張」に興味を持たれていました。歩くと音が鳴る床のことですね。

ーDolphins Into the Futureによる曲も複数、プレイリストに挙げていただきました。

昔から彼の大ファンなんですが、長年にわたり、海の音をサンプリングし、音を重ねるなどしてきたベルギー拠点の作曲家ですね。2019年リリースのCD『Songs of Gold, Incandescent』は、くぐもった水中録音の質感、波の音や鳥の声が合成されたりもしていて、ちょっと不思議で懐かしい彼の世界観を堪能できると思います。ちなみに、ジャケットにはサンゴの写真が使われています。

ーこのCDには、各地で自然音を録音したときの話、太平洋諸島を旅する人が無線ラジオへ孤独に耳を傾けていた旨が書かれた古い日記、サモワの神話についてなども書かれていますね。そして、Dolphins Into the Futureと同様、イルカつながりで言えば、X.Y.R.の “Dolphin Smile”も選んでいただいています。

X.Y.R.さんはロシア出身の方ですね。海などのイメージを電子音で作曲している方で、僕と近い作り方をしているように思います。かなり多作なアンビエント作家で、この曲が収録されている『Wave Tapes』は海をテーマにしたアルバムです。

ー最後の曲のコンポーザーであるCoral Morphologicは、マイアミ(アメリカ合衆国)の海洋生物学者でもあるとか。

Coral Morphologicは、サンゴの研究や自然保護の活動も行なっていて、ウェブサイトではサンゴ礁の様子を定点カメラで24時間配信していたりもします。サンゴの生態系のあり方は、海の環境全体に影響を及ぼすんですよね。水温が上がりすぎると白化してしまい、生き物がサンゴに住めなくなってしまうのだそうで。

ーこうしてお話を伺うと、曲の背景も思いながら聴くことができそうです。ちなみに、このプレイリストは、どのように聴くのがオススメですか?

海を感じられるような選曲にしたので、寝る前などに部屋を真っ暗にして、音だけに集中して聴いていただくと、没入感のある体験になるかと思います。

ーみなさま、プレイリストをお楽しみください!


TRACKLIST

Roméo Poirier – Statuario
Kumi Takahara – Sea (Roméo Poirier Rework)
AV Moves – Cuddl3
Dolphins Into the Future – Memory Of Self
X.Y.R – Dolphin Smile
Dolphins Into the Future – Culatra Island
Coconut Dealers – Tropical Miasma 1
Dolphins Into the Future – Onset – Beyond Clouds
Roméo Poirier – Avlaki
Loris S. Sarid – Oyster Peace
Coral Morphologic & Nick León – Discovery


Profile
H. Takahashi | エイチ・タカハシ


東京を拠点に活動する作曲家/建築家。2021年よりレコードストア【Kankyo Records】を運営。作曲家としては、UKの【Where To Now?】、USの【Not Not Fun】、ベルギーの【Dauw】や【Aguirre】、日本の【White Paddy Mountain】などからアンビエント作品をリリース。また、「UNKNOWN ME」や、「Atoris」といったライブユニットとしても活動している。2024年からは、Atorisで共に活動するKohei Oyamadaとのユニット「H TO O」としての活動を開始し、デビューアルバム『Cycle』をUKの【Wisdom Teeth】より発表。
IG : @h.t.a.k.a.h.a.s.h.i

取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀