COMPUMA / 潮騒RADIO vol.01

潮騒RADIOのvol1のビジュアル。

ミュージシャンやDJが、海をイメージした選曲をプレイリストとしてお届けする常設展〈潮騒RADIO〉。

Vol.01は、DJ・音楽家のCOMPUMAさんが登場です。1stアルバム『A View』では波の音を楽曲に取り入れたり、2ndアルバム『horizons』では自身のルーツとなる熊本県の江津湖から着想を得たり、Dr.NISHIMURA、AWANOとのDJクルー「悪魔の沼」では各地のフェスやイベントに招へいされたりと、「水」と縁深いキャリアを持つ方でもあります。

選曲のテーマは「海の風景と海洋科学、音の海」。前半の11曲目までを一般的な音楽としての選曲とし、後半の12曲目以降を海にまつわるフィールドレコーディング(スタジオの外で行う録音のこと)作品を中心に厳選していただきました。「海をつなぐミュージアム」開設記念として、2時間29分、特別増量版のプレイリストをお届けします(次回以降は60分前後を予定)。なお、毎回、ジャケットとして、イラストレーターの沖真秀さんに、プレイリストの選曲とリンクするような絵を描いていただいています。

電子音響のようなクジラ、アザラシ、生態系

ーCOMPUMAさんはこれまでの暮らしのなかで、どのように海と接してこられましたか?

いまは東京で暮らしていますが、20歳前までは九州の熊本県に住んでました。小学生の頃、夏休みになると、父親が車を出してくれて、家族で天草へーー熊本市内から車で1時間半〜2時間ほどにある内海なんですけど、そこで海水浴をしたり、船に乗って釣りを体験したり、民宿や旅館で何泊か過ごすことが毎年楽しみでした。

ー東京に来てからはいかがでしょうか?

あらためて考えてみると、上京して以降は、ほぼ海と関わることがない生活をしていたように思うんです。ずいぶん前に、友人が車の運転の練習がてら、江ノ島や由比ヶ浜(ともに神奈川県)あたりまでドライブに連れて行ってくれたくらいで、自分自身も完全なるペーパー・ドライバーですし……あとは、近年になって江ノ島「オッパーラ」に出演させてもらった際に、あの近辺を散歩する程度でした。ただ、息子が生まれてからは、自分が小さい頃に父親に天草の海に連れて行ってもらっていたことを思い出したり、それからは、夏休みには伊豆半島(静岡県)や三浦半島(神奈川県)に行ったりするようにもなりました。

ー首都圏からアクセスもしやすいですよね。

伊豆方面へは、特急「踊り子」に乗って海沿いの景色や太平洋の水平線を眺めながら行くのも楽しみで、海水浴はもちろん、釣り、温泉も含めて旅情に浸ってました。

磯遊びにも一時期ハマりました。潮だまり(干潮時に岩のすきまにできる水たまり)にいろいろいるんですよ。見たことのない、小さなカニらしき生物、イソギンチャク、虫や魚……そういったものを捕まえて、透明のケースに入れて、いろいろな角度からニヤニヤしながら眺めて、最後はお礼を伝えて海に返してあげる、ということをよくやっていました。

ーいろいろな角度から見る、というのが、COMPUMAさんらしさのように思います。今回は、DJ、音楽家、バイヤー(レコード店の商品セレクト)と、さまざまな視点から「海の音楽」を聴かれてきたと思い、プレイリストの作成をお願いさせていただきました。

たいへん光栄なことで、ありがたく取り組ませていただきました。「海をイメージした選曲」とのことで、まず思い浮かんだのが、海のフィールドレコーディング作品についてです。

1990年代から2000年代初頭、渋谷WAVEやタワーレコード渋谷店でバイヤーとして勤務させていただいていた時期に、ニューエイジ/その他(アザーズ)コーナーの売り場を担当させていただいていたのですが、当時のヒーリング音楽の流行もあって、波や川のせせらぎ、イルカや虫の音、α波シリーズなど、自然音や環境音が収録されたCDが数多く発売されておりました。

仕事がてらも含めていろいろな種類の盤をチェックさせていただいたのですが、いくつも聴くうちにだんだんと自分好みのレーベルやアーティストが見えてくるようになりまして、そんななかで、自分にとってエポック・メイキング的、象徴的な作品との出会いがありました。それは、フィールドレコーディングの第一人者、Douglas Quinさんによる『Antarctica』(1998年)というCDでした。

これは、南極における海の生態を水中マイクなどで録音したものなんですが、ここに収録されたペンギンやアザラシたちが海中で交信する音(鳴き声)が、びっくりするほどかっこよくて、まるで電子音楽の音響作品のようで、本当に衝撃的だったんです。ただ、このCDの楽曲群は、(サブスクリプション・サービスである)Apple MusicやSpotifyでは(アップロードされてないため)聴けないものなので、今回は選曲を見送りましたが、非常に思い入れの強い作品のひとつなんです。

ーこうした自然音のレコードやCDは、昔からあったんでしょうか?

1940〜50年代以降、アフリカ民族音楽の調査と研究の第一人者Hugh Traceyや、20世紀音楽図書館と言える「Smithsonian Folkways」や「Ocora」に代表されるように、人種、国、宗教に根づいた世界の民族音楽を音声資料として録音・収集する民俗学的なアプローチの延長で、自然音や環境音を録音し、資料として残して、リリースすることが広まっていったように思います。そこから、だんだんと音響としての作家性やリラクゼーションなどの目的が加味されながら、独自に進化していったジャンルなのではないかと思います。

そして、今回のテーマ、海ということで言えば、個人的には『ざとう鯨の歌』(1970年)という、北大西洋バミューダ沖でのクジラの生態を音でとらえたレコードも印象深いですね。アートブックのような冊子もついていて、日本語訳もあります。このレコードは当時、世界中で大ヒットして、クジラにまつわる環境問題が注目されるような広がりにもつながった、記念碑的なレコードです。プレイリストでは、15曲目のFrank Watlington ”Solo Whale”が、この『ざとう鯨の歌』に収録されているものです。

ーこれがクジラの声なんですか? 不規則な電子音が反響しているようで、とても美しいです。

14曲目のGlenn Edney ”Tonga Whales”もクジラの生態を録音したものなんですが、これは『New Songs of the Humpback Whale』(2015年)というCDより選曲させていただきました。『ざとう鯨の歌』から数十年が経ち、機材の性能が向上した現代にもクジラの録音物は数多くあるのですが、こちらのCDが特に素晴らしいと思いまして……あくまで個人の感想ではありますが、『ざとう鯨の歌』と『New Songs of the Humpback Whale』が、クジラ生態音の新旧マイベスト、といったところでしょうか。

ー13曲目の”Bowhead Whale and Bearded Seals”は、ホッキョククジラとアゴヒゲアザラシの録音物とのことですが、これもギュルギュルと聴こえる下降音がまさに交信音のようです。こうした自然音のCDには解説やブックレットが付属していることも多く、録音の背景についても学べそうですね。

音への興味をきっかけに、それぞれの盤の録音データや解説を読んだり、『海辺のずかん』『海』(ともに福音館書店)、『ホッキョククジラのボウ 200年のたび』(小学館)といった絵本を本棚から引っ張り出して眺めたりして、子どもの頃の記憶と重ね合わせながら、海辺や海の環境、クジラを取り巻く問題などをあらためて知ることができました。

ー背景を知ると、録音物のとらえ方も変わりそうです。「あのクジラの声は、悲痛な叫びだったのか」と。

ただただ雄叫びを上げているだけなのかもしれないですし……多様なあり方に思いが馳せられますよね。ちなみに、16曲目の”South Pacific Migration Party”は、イギリスの電子楽器・シンセサイザーのメーカー、Electronic Music Studio(EMS)の創設者であるPeter Zinovieffさんの遺作となった作品で、シロナガスクジラの鳴き声をコンピューターやシンセサイザーを用いて、エレクトロニック・サウンドスケープとして緻密に再現されたものです。

ー12曲目の Dolphins Into The Future ”Observations trough the halocline of the world, Ⅱ”は、イルカの声のフィールドレコーディングでしょうか?

Dolphins Into The Futureさんは、ベルギーのフィールドレコーディング、アンビエント・シンセサイザー/電子音楽のアーティストであるLieven Martens Moanaさんの別名義で、この名義では、イルカの生態や波の音、海洋を中心とした自然音、シンセサイザー、エレクトロニクス(電子音)が交じわるような、レイヴ~アンビエント以降のサイケデリックなダンス・ミュージックとしての究極の研究の成果とも呼べそうな制作をされていて、この曲もそのひとつですね。近年は、本名のLieven Martens Moana名義で、よりストイックなテープ・ミュージック的手法のカットアップやコラージュ、モンタージュ的なフィールドレコーディング作品を中心に精力的にリリースされてます。

この曲が、前半の楽曲中心の世界観から、後半のフィールドレコーディング的な世界観へのブリッジ的な役割を果たしてくれているのではないかと思っておりまして……来日公演で何度かご一緒したり、以前ベルギー・オイペンでのMeakusma Fesに出演した際、ブリュッセルでご一緒して、自宅に泊めていただいたり……そんなことを思い出しながら、ここに選ばせていただきました。

ー”ジャマイカの波”も選曲されています。

『Surf Break From Jamaica』(1977年)というジャマイカの波の音を録った有名なレコードがあるんです。個人的な主観ですが、数多くある波を録音したレコードのなかでも、かなり気持ちいい波の音のレコードではないかと思っております。この曲もApple MusicやSpotifyに見当たらなかったので、近いものを選ばせていただきました。

穏やかな海の風景とPACIFIC 231

ー前半の一般的な音楽と言えそうなパートも含めて、全体の選曲はどのようなイメージで臨まれましたか?

「海の風景」でしょうか。海の何かにクローズアップ、というよりは、遠景、遠くからの海の眺めや海にまつわる心象風景だったり、穏やかな波だったり、水平線が見えたり、海辺に暮らす人の生き方だったり……といったものがイメージできるような選曲を心がけました。ドラマチックな展開ではないんですが、何も起こらない、穏やかな日常、日々が続けばいいなという、平和への祈りといいますか。(フォークランド紛争をテーマにした)Robert Wyatt “Shipbuilding”、続く”おやじの海”では、選曲を通じて、家族の平穏へ思いを巡らせたりもさせていただきました。

蓮実重臣さんの曲は、Apple MusicやSpotifyにこの曲(”Penguin Cafe Single”)しかなかったんです。蓮実さんの存在は、個人的には今回の選曲の裏テーマというか、三宅剛正さんとの「PACIFIC 231」というユニットでは、エキゾチックな海洋音楽として素晴らしい作品をいくつもリリースされていました(細野晴臣さんのレーベル「DAISYWORLD DISC」や、永田一直さんのレーベル「TRANSONIC RECORDS」などより)。自分にとって「海の音楽」というと、蓮実さんのことが真っ先に思い浮かびます。後半の海洋音響的なサウンドにもつながっていくようにも思い、前半の最後に選曲させていただきました。

プレイリスト全体としては、なるべく聞き疲れしないような流れを意識してみました……と、あまり説明しすぎるのも、なんだか押しつけがましくなってしまいそうなので(笑)、平穏な海の風景の音楽として、このプレイリストを楽しんでいただけたら幸いです。

ーすみません、いろいろ聞いてしまいまして……本日はありがとうございました!


TRACKLIST

David Behrman – On the Other Ocean
Bill Evans Trio – Seascape
Tracey Thorn – Seascape
Alessi Brothers – Seabird
Bob Marley & The Wailers – High Tide or Low Tide – Jamaican Version
Robert Wyatt – Shipbuilding
木村好夫 – おやじの海
Stevie Wonder – Ebb Tide
ANTONIO CARLOS JOBIM – Wave
GABBY & LOPEZ – Tide Away
蓮実重臣 – Penguin Cafe Single
Dolphins Into The Future – Observations through the halocline of the world, Ⅱ
Bowhead Whale and Bearded Seals – Bowhead Whale and Bearded Seals
Glenn Edney – Tonga Whales
Frank Watlington – Solo Whale
Peter Zinovieff – South Pacific Migration Party
効果音 – ジャマイカの波(Natural sounds Series-2 WAVE from New Caledonia&Jamaica)
Dolphins Into The Future – Culatra Island



Profile
COMPUMA | コンピューマ

松永耕一、熊本生まれ。ADS(アステロイド・デザート・ソングス)、スマーフ男組での活動を経て、DJとしては国内外の数多くのアーチストDJ達との共演やサポートを経ながら、日本全国の個性溢れる様々な場所で日々フレッシュでユニークなジャンルを横断したイマジナリーな音楽世界を探求している。自身のプロジェクトSOMETHING ABOUTよりMIXCDの新たな提案を試みたミックス「SOMETHING IN THE AIR」シリーズをはじめ、コレクティヴ「悪魔の沼」での活動でのDJや、楽曲制作、リミックスなど意欲的に活動。2022年には初のソロ名義アルバム『A View』、2024年に『horizons』をリリース。Berlin Atonal 2017、Meakusma Festival 2018への出演、ヨーロッパ・ラジオ局へのミックス提供など国外での活動の場も広げる。一方で、長年にわたるレコードCDバイヤーとして培った経験から、コンピレーションCD 「Soup Stock Tokyoの音楽」の他、BGM選曲を中心に、アート・ファッション、音と音楽にまつわる様々な空間で活動している。Newtone Records、El Sur Records所属。
IG:@compuma_km/

取材・文 花澤王
イラスト 沖真秀
写真 塩田正幸(SOMETHING ABOUT提供)