
"The sea is vast, so big..." The skills and wisdom (= folk tools) nurtured through the long relationship between the sea and people, for obtaining its bounty, and the hopes (= toys) that people have held for a bountiful catch towards the sea.Musashino Art University Museum & Library, Folklore Materials RoomExcavated from the approximately 90,000 folk artifacts held by the institution. Separate exhibition rooms are provided for folk tools and toys, and a series of articles, with commentary by Professor Koji Kato of the university, explores the deep connection between people and the sea that has continued from ancient times to the present.Click here for project details.)。第9回目は「壺で漁る」をテーマに海の民具を紹介します。
時間を「使う」技術
焼きものの壺を使った漁業の代表的なものは、蛸壺漁(たこつぼりょう)です。海底に壺を沈めてそこに入ったタコを引き上げることは、餌に食いつかせて釣り上げる釣り漁や、獲物の通り道などに網を仕掛けて捕らえる網漁とは異なり、壺を沈めてタコが入るまで待つというプロセスを持っています。そこには陸上での人間の生活時間とは異なる「海の時間」、すなわち潮流や海水温の変化、天候、月齢など、多様な要素の絡み合った時間と向き合う姿勢が求められます。これに対して人間ができることは、効率とは逆方向にある「待つ」ことです。焦って早く引き上げれば空振りに終わり、遅ければ勘づかれて逃げられることもあります。タコが入るまでいかに「待つ」かは、蛸壺漁の最大の「技術」と考えられます。
タコ目線の居心地の良さ
蛸壺(たこつぼ)の素材には、素焼き、釉薬をかけた陶器、セメントなどがあります。蛸壺は竹篭を使った漁と異なり、海底に岩のように沈むことが重要であり、またタコが岩場の影と見間違えるような質感が求められます。石っぽい素材で人間が作り出せる材料が、蛸壺の素材となります。蛸壺は、形の面白さが見どころです。タコが天敵から身を隠しながらみずからの獲物を狙うために、狭い暗い場所を好み、岩穴などを巣とする習性を、人間は観察によって見出したのでしょう。そこで、タコを追いかけて捕まえるのではなく、タコが自分から壺に入ってくるにはどのような工夫が必要か、蛸壺には、漁師によるタコ目線での居心地の良さの解釈が造形化されています。
壺だけが民具ではない
蛸壺の民具は、壺の部分だけ収集されることが多いですが、漁具組成(ぎょぐそせい)という観点から見れば、蛸壺単体だけでなくそれらを海底に沈めるための幹縄(みきなわ)、枝縄(延縄〈はえなわ〉形式)、錘(おもり)など、一連の組み合わせで成り立っています。それを使って、どのように壺を海に沈め、どのくらいの間隔で並べ、どのように引き上げるのか、道具全体を船上に運び、どのような作業で漁場に沈め、そして回収するかが、蛸壺漁の全体像です。蛸壺は壺を作り、運んで沈め、待ち、引き上げるという一連の行為が、「海の時間」に対する民俗知識と結びついているのです。
自然の側からの視点
蛸壺を人間が使う道具、すなわち人間を主体として考えると、それはタコを捕る生業の道具として捉えられます。一方、少し引いた目線で見てみると、漁師という人間の労働と、蛸壺というモノ、そして海底、その海底と人間との間にある海水や潮流、タコという生きものなど、さまざまな要素が見えてきます。その関係性のなかでは、人間は壺を沈めるというアクションを起こしますが、漁という営みを成立させるのは、タコがみずからそこに入る行動です。蛸壺には、漁師の経験、タコの生態、海底の環境、地域の歴史、素材の技術、さらには人と海との関係までが凝縮されているのです。
蛸壺と人新世
蛸壺漁(たこつぼりょう)では、しばしば縄が切れたり海底で割れたりして、引き上げられない蛸壺が海底に残ります。また海水で劣化した壺や壊れた壺は修復されずに廃棄されます。考古学では蛸壺の研究の蓄積がありますが、それは土器や陶器の素材が、物理的に残りやすいという側面があるからです。蛸壺は割れて海底に残り長期間残存するでしょう。未来の考古学者や地質学者は、海底を調査したり隆起した地層を研究したりするなかで、海底に人間の営みの痕跡として蛸壺を発見するかもしれません。糸や木材、竹は朽ち果ててしまいますが、人間の人生よりもはるかに長い時間存在し続ける蛸壺は、人間と海の関わりを痕跡として残す数少ないメッセンジャーとなるでしょう。
Folk Art Gallery
蛸壺(壺型)
人為的に作られた蛸壺(たこつぼ)をいかに自然の構造物と勘違いさせるかが、蛸壺漁の成否を分けます。そのためには形や大きさを工夫することは言うまでもなく、そこにはタコ目線のデザインが見て取れます。しかしそれだけでは完成しません。海底である程度表面が風化し、またフジツボがまとわりつくなど、海底の自然の岩で見られることが壺にも反映されて、初めて完成するデザインなのです。

蛸壺(円筒型)
蛸壺は基本的にはタコが居心地の良い住処としてくれることが大切ですが、漁師はこの壺を延縄として大量につないで海底に投入し、引き上げます。それは重労働でもあり、効率よく行う必要があり、船上でも数多く並べるために規格化が進みました。規格化する過程で地域ごとの形の特徴も生まれますが、そこには「タコが入りたくなる形」と「漁師が扱いやすい形」の両方を満たすためのソリューションが造形となっています。人間にとっての使いやすさ×タコにとっての入りやすさという、二つのユーザーがいるデザインです。

蛸壺(釣鐘型)
蛸壺の中にはとても小さな釣鐘型のものがあります。これはイイダコを捕るための蛸壺で、考古学的にも研究されてきました。イイダコは「飯蛸」と書くように別名「海のお米」と呼ばれ、春先の産卵期にメスの胴(頭部)の中に詰まった卵巣が、白く粒状の飯のように見え、食感もご飯に似ているからです。

蛸壺(破片型)
水瓶などの焼締陶器の破片を合わせただけの民具があります。これもイイダコを捕るための蛸壺です。これに縄を結びつけて海底に沈めて引き上げるのです。壺は本来、物を保存したり、液体を入れたりする容器ですが、蛸壺ではそれが海底に沈められ捕獲装置へと転用されており、容器と漁具という一見まったく異なる用途がダイレクトに結びついています。壊れた壺・使い古した容器までが漁具になる可能性があり、壺とは何なのかと固定観念が揺さぶられる民具です。

はぜ壺
香川県など瀬戸内海では、蛸壺のような壺の口を中央ですぼめた特徴ある漁具があります。これはハゼを捕るための壺です。この壺は漁村の風情を伝える造形でもあり、昭和後期には花入れの造形に取り入れられ、この民具も漁具ではなく漁具を模した花入れと考えられます。付着したカキの貝殻のような表現まであり、海の情緒を漂わせています。

Planning, supervision, and writing
Koji Kato
Professor at Musashino Art University, specializing in folklore (research on folk implements). Holds a PhD in Literature. Previously served as a curator at the Wakayama Prefectural Kii Fudoki-no-Oka Museum and a professor at Tohoku Gakuin University (concurrently serving as a curator at the university museum), before assuming his current position in 2019. His major publications include "Folklore: Facing and Expressing the Past" (Musashino Art Publishing Bureau/2022) and "Folklore: Public Studies: Learning and Practicing for Oneself" (Musashino Art Publishing Bureau/2025).
