2026年5月、「図書館とであう海の本」に参加した図書館員たちが、それぞれが選んだ「海の本」について語り合うトークディスカッションを行いました。
集まったのは、海辺の図書館から海のない地域の図書館まで、9館の図書館員たち。同じ「海」をテーマに選んだ本でも、その見え方は驚くほど多彩でした。
本記事では、その対話から浮かび上がった「海の姿」を紹介することで、展示「図書館とであう海の本」をより楽しめる視点のヒントをお届けします。
現地参加:洋野町立種市図書館、真岡市立図書館、荒川区立図書館 ゆいの森あらかわ、安曇野市明科図書館、松江市立島根図書館、田原市図書館、日本図書館協会、みなとラボ
オンライン参加:大阪市立中央図書館、知夫村立知夫村図書館、淡路市立津名図書館








青春を育てる海
最初に話題となったのは、人が悩み、成長していく舞台としての海でした。
洋野町立種市図書館が選んだ『ヘルメットダイバーズ 北三陸高校海洋開発科』は、岩手県の同町にある種市高校海洋開発科をモデルにした小説です。地域に受け継がれてきた「南部もぐり」の技術を学びながら、生徒たちが家族や友人との関係に向き合い、それぞれの未来を切り開いていく姿が描かれています。

一方、真岡市立図書館が取り上げた『ナカスイ! 海なし県の水産高校』は、海のない栃木県の水産高校を舞台にした物語です。「栃木に住んでいると海との接点は少ないが、この本を読むと主人公と一緒に海へ近づいていくような気持ちになる」との紹介に、参加者の関心も高まりました。

松江市立島根図書館が「目の前に真っ青な海が広がって、自分もギラギラした熱い太陽に焼かれているような、ヒリヒリする小説」と紹介したのは『14歳の水平線』。大都市から島にキャンプに来た少年たちが、価値観の違いから初めは反発し合いながらも、さまざまな出来事を通じて打ち解けていきます。
「違いを認め合えるようになるのは、海が舞台だったから、海につながれたからかもしれない」
海は単に物語の背景なのではなく、人生の節目に寄り添い、成長していく時間を見守る存在として描かれているという気づきが得られました。
想像力を広げる海の本
本は、私たちをまだ見ぬ世界へ連れて行ってくれます。今回のトークでは、海が想像力を大きく広げてくれる作品も紹介されました。
安曇野市明科図書館が紹介した絵本『うきわねこ』では、主人公の猫が浮き輪に乗って空を旅します。海が描かれる場面は多くありません。それでも紹介者は、この一冊をあえて「海の本」として選びました。
「海のない長野県で暮らす私にとって、浮き輪は家族旅行で海へ行くときの特別な道具であり、押し入れから出した瞬間から海への旅が始っているんです。」

その紹介に共感を示した種市図書館が紹介したのが『星をつるよる』。眠れない子どもがお月様に「あそぼうよ」と声をかけることから始まる物語です。星形の釣り針がついた糸がするするとおりてきて、眠れない友だちがつぎつぎとあつまってくる物語。海も森も宇宙も、人も動物も、あらゆる命がつながる世界が描かれます。「地球全体が海に包まれいることがわかるような、じわっと心にくる本」と紹介されました。

田原市図書館が紹介した『星につたえて』は、まだクラゲしかいなかった太古の海を舞台に、命が長い時間をかけてつながってきた物語が描かれます。「最後のページを読んで思わず涙が出た」と紹介された、切なくも愛しいお話です。
これらの本に共通していたのは、海と空、星、宇宙が重なり合うことで、海という存在の果てしないスケールを感じさせてくれること。そして海を入り口に、日常のさまざまなものへと想像が広がっていくことでした。
遠い時代や土地とつながる海

海は、過去や遠く離れた土地とも私たちをつないでくれます。
田原市図書館が紹介した『風濤の果て』は、渥美半島から海へ出た4人の船乗りの実話をもとにした作品です。90日間に及ぶ漂流の末、生還した4人の生き様が描かれています。地元では紙芝居や絵本にもなり、地域の記憶として受け継がれてきました。
この本をきっかけに、海に出た人々の記録を後の世代へ伝えるような本の価値が再確認されました。他方で、『風濤の果て』は現在絶版になっていることから、「今では手に入りにくい本を残していく図書館の役割」があらためて共有されました。

安曇野市明科図書館が紹介した『図説 穂高神社と安曇族』は、海のない長野県・安曇野と海との意外なつながりを教えてくれる一冊です。
山に囲まれた地域でありながら、穂高神社には船をぶつけ合う勇壮な祭りが今でも受け継がれています。その背景には、九州から移り住んだとされる安曇族の歴史がありました。「何気なく参加してきた地域の祭りが、海とつながっていたことに驚きました」。
海辺でなくても、土地の歴史をたどれば海との結びつきが見えてくる。本を通して探していくことの面白さが発見されました。
さらに真岡市立図書館が紹介した『深海の地図をつくる 五大洋の底をめぐる命がけの競争』では、「私たちは海の底よりも、月の表面について多くを知っている」という一節をきっかけに、海を知ろうとしてきた人類の歴史へと話題が広がりました。2030年までの海底地図完成を目指す国際プロジェクトを追ったこの本には、気象や技術だけでなく、政治や軍事、資源をめぐる駆け引きが、地図づくりを阻んできたことが描かれています。
漂流の記録、祭りに残る記憶、海を知ろうとする挑戦。すべては海を未来へ伝えようとする営みでした。海は、過去と未来、遠い場所と今とを結びつける存在でもあるのです。
海は命と向き合う場
海は豊かな命を育む一方で、人間との関わりのなかで失われてきた命について考えるきっかけも与えてくれます。
荒川区立図書館 ゆいの森あらかわが紹介した『極北の海獣』は、乱獲によって絶滅したステラーカイギュウをめぐる物語です。紹介者は、読み進める中で「かわいそう」と感じる気持ちと、「美味しそう」と感じてしまう気持ちの間で揺れたと語りました。そこから話題は、「命をいただくこと」と「海の命を守ること」という、人間にとって避けて通れないテーマへと広がっていきます。
同じく紹介された吉村昭『海も暮れきる』では、人生の最後に「海が見たい」と願う人物が描かれます。そこには、海の大きさや優しさだけでなく、ときに抗うことのできない力を持つ存在としての海がありました。


松江市立島根図書館が紹介した『リブと海』は、漂着ごみに絡まり片方のヒレを失ったアカウミガメが保護され、再び海へ戻るまでを描いた実話です。この作品を通して共有されたのは、「海は人間だけのものではない」という視点でした。
ここで確認されたのは海には相反するさまざまな表情があるということ。それらは生きものの命に関わることが多く、そうであるからこそ、海は私たちに命について考える時間を与えてくれるということを発見する時間になりました。
図書館とともに海の本を見つけよう


会の終わりには、図書館員たちの本展示へのそれぞれの実感が寄せられました。
「一冊一冊に選んだ人の物語があり、受け取る人にもそれぞれの物語がある。それを分野を超えてつないでいけるのが図書館のいいところ」
「自分では選べなかった本に出会えた」
「読んだ人の感想が、何より生き生きしていて楽しかった」
海辺の図書館と海のない図書館とでは、選ばれる本の傾向も大きく異なりました。
「地元にこんな歴史や文化があったとは知らなかった」
「海への憧れから、本を選んでいたことに気づいた」
そんな発見もあったといいます。そして、あらため共有されたのが図書館という場そのものの価値でした。
「本を生かすも眠らせるも、つなぐ人がいてこそ。図書館にあることで、その本の魅力が生きるようにしたい」
今回のトークを通して見えてきたのは、一冊ごとに異なる「海」の姿でした。青春を育てる海。想像力を広げる海。遠い歴史と土地をつなぐ海。命と向き合う海。
「図書館とであう海の本」の展示を見るときに、その一冊の向こう側に、誰かが見つけた「海」を思い浮かべてみてください。きっと、これまでとは少し違う海に出会えるはずです。
MOONでは、これからも全国各地でブックトークや読書会を開催していきます。ご興味のある図書館や学校のみなさまは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
Photo:Futoshi Osako
Text:Ellie Lee Howlett
