山辺圭司(Los Apson?) / Sound of the wavesShiosaiRADIO vol.17

"Shiosai RADIO" is a playlist curated by musicians and DJs, featuring songs related to the ocean.

vol.17は、CDやレコードなどを扱うストア「Los Apson?」の店主であり、DJとしても活躍する山辺圭司さんが登場。1994年に西新宿でオープンした同店は、幡ヶ谷、高円寺へと2度の移転を経ながら、世界中の熱心なファンが足を運ぶ名店として知られています。一方で、音楽に没頭する以前の山辺さんは、寝ても覚めても釣りのことばかり考えている少年だったそうです。「海」というテーマでプレイリストを制作していただき、「Los Apson?」でお話を伺いました。

「明るい」だけじゃない海景

ー山辺さんは海が近い場所に住んでいたんですか?

生まれた場所は、家でいうと3軒先が海。青森市の陸奥湾で、そんなに荒れる海じゃなくて。だから、小さいころは海でよく遊んでたね。そういう環境だからさ、本当に身近で。

ー釣りもそうした流れではじめたんでしょうか?

小さな船を出すような漁師もいたし、防波堤みたいなものもあって、物心がついたころにははじめてたんじゃないかな。小学生のときはバリバリやっていたし。

ー熱中していたんですよね?

熱中してたよ! その対象が、いまは音楽に替わったようなものだから。明けても暮れても釣りのことしか考えていなくて、ちょうどそのころ、『釣りキチ三平』(矢口高雄著/講談社)がマンガで出て、アニメでも放送されていた影響もあって、さらに加熱するわけですよ。

ー「釣りのことしか考えていない」って、何を考えていたんですか?

仕かけについてとか、釣り餌のこととか、今度はあのポイントを攻めてみようとか。休日は朝4〜5時に起きて釣りに行く生活で、アジ、カレイ、サヨリ、アイナメなんかを釣ってました。小学校高学年のときに、その家から引っ越しちゃって、海の近くではなくなるんだけど、川や沼へ行くようになって、今度はヘラブナ釣りにハマるんです。自分で浮きをつくって風呂で具合を見たりして、ずっと釣りのことをやっていました。

ーいま音楽でやられてることと変わらないですね。

レコードを磨いたりしてるのと同じだよね。中学生くらいになると、深夜ラジオを聴きだしたりして、朝早く起きられなくなって、時間的に自由が効く音楽に行くわけです。

ー今回のプレイリストは、海を見ながら釣りをされてきた経験も反映されているのでは?

釣りに行けば、必然的に海や波、太陽、雲の動きも見るしね。感じることは多かったんじゃないの? 光る海面とかを見て、初めてサイケデリックなものを感じたんだろうし。今回選んだSteve Reich “Four Organs”も、波が動いているようなサイケ・ミニマルです。

ー最小限の音が少しずつ変容していきます。

そこが音楽にも共通するところだし、イメージ的にも入りやすかったんじゃないかな。海は気候の影響も大きくて、雷が落ちると体感もすごいし、強風でミシミシいうラップ音のようなものが聴こえるときもあるし、荒れた波の音も近くでしか感じられないものがあって。なぜか、でかいキノコが納屋のなかに突然に生えてたりもして、不思議な場所でした。

あと、海はきれいなだけじゃなくて、脅威的なときももちろんあって。隣に住む友達の幼子が溺れて死んじゃったり、いとこも海で流されて釣り人に助けてもらったり、海の怖さみたいなものもあるなと。

ー「おらは死んじまっただ」という歌詞ではじまる、フォーク・クルセイダーズ “帰って来たヨッパライ”を2曲目に選んでいますが、そういう選曲の意図だったんですか?

いや、 “帰って来たヨッパライ”は、小学生のとき、防波堤で釣りをしてたら、いままでにない引きの強い獲物がかかったんだけど、ひとりで上げられなくて。よく一緒に釣りに行ってたアマナイ君に手伝ってもらいながら釣り上げて、そのあと、なぜかアマナイ君に「うちでレコード聴かない?」って誘われて、家でレコードを聴かされるわけですよ。それが、 “帰って来たヨッパライ”。でかい獲物を釣ったあと、アマナイ君とポータブルのプレイヤーで聴いて……レコードを自分で買いはじめる前の話ですね。

ーあらためて聴くと、音響的で風変わりなアレンジであることに驚きました。この曲は山辺さんにとって、音楽の原風景でもあるんですね。

この曲で(ピッチを上げる加工がなされた、ロボットのような)「チビ声」も好きになったんだろうし、そういう音の世界に入りやすくなったのかな。ジャケットも派手な蛍光色で、「何これ?」みたいな。最初のインパクトがこれだったから。

ー選曲の話に移りましょうか。続く3曲目は、先ほども言及されていたSteve Reich “Four Organs”。

このレコードのジャケットは海面の写真が使われてて、釣りをしていたときの映像を思い出してドンピシャだなと。いまでもよく聴くし、店でも売ってきたし、「Los Apson?」の定番アイテム。音の動きも、延々と同じじゃなくて、風や潮の流れで模様が変わるような感じもおもしろいですね。

ーそこから、Neil Young “On the Beach”。

「海」と聞いて最初にパッと思い浮かんだのが、Neil Young “On the Beach”のジャケットです。

ービーチの写真が使われていますよね。歌詞やムードは、孤独や世界のあり方に向き合うような、シリアスなものです。

明るい海だけじゃないぞと。いまの世相で聴くのにも、バッチリだろうし。

ーChris Rea “On the Beach”。Neil Youngの同名曲とは別作品で、1986年リリースの楽曲です。

かつて「六本木WAVE」でバイヤーを務めていた時代に、自分の担当ではなかったけど、売れまくっていた曲。当時いたるところで、かかってて。クラブで踊れるように長尺化したリミックスも出ているし、それくらい広く聴かれていたなと。

ー続くNick & Samantha “On the Beach”は、Chris Reaのカバーですね。

うちの店で「高円寺バレアリック」というコーナーをつくって、そこで扱ってたアイテムのなかの1曲。今回選んだ曲のCDを、このあたりにまとめといたんだけど……このコンピレーション(『Sheer Rocks: Music On The Rocks Vol. 1』)に入ってる。

ーバレアレス諸島(地中海)のような開放感を感じさせる「バレアリック・サウンド」。その解釈がさまざまになされるなかで、高円寺に移転した「Los Apson?」が、イマジナリーな「音の桃源郷」を模索したのが「高円寺バレアリック」といえそうです。

その次のLui “Kaanapali”も「高円寺バレアリック」を探っているときに初めて聴いて、いいアルバムだなと。すこしソフトロック的で、コテコテのハワイアンではないんだけど、ハワイ特有の快楽性も感じられるし……というか、このあたりのセレクトは、全部「海ジャケ」なの。これも海、これも海……。レコード屋なので、物体としてのジャケットに海が映っているかどうかを基準に選んで、自分はサブスクをやってないけど、そのなかから配信で聴けるものを探してもらって、プレイリストをつくりました。

ーそこに、山辺さんならではの海の見方があるように感じました。先ほども話していたように、明るいだけじゃない、という海。

青森では、寒々しい海もさんざん見てきたからさ。雪が降ってて、海辺が真っ白で幻想的だったりもするし。東京に来てからも、青森に帰るときは見にいくようにもなって、そういうイメージで選曲したのが、Polygon Window。いま聴いても、寒々しいワクワク感があるなと。

ーその次が、LTJ Bukem “Demons Theme”。同曲が収録された『Logical Progression Level 1』は、宇宙で撮った衛星写真のようなジャケットですが、惑星のなかに海もしっかり映っています。

「海ジャケ」ということで久々に通して聴き直したけど、よかったよ。海で聴いてもいいと思うし。辻堂にあった「SPUTNIK」(2000年代に神奈川県藤沢市で営業していた夏季限定のビーチ・カフェ)で流れていそうなイメージ。「SPUTNIK」ではイベントで何回かDJしたけど、レコードが砂だらけになっちゃってね。表でやろうもんなら、風で砂が飛んできちゃって、大変でした。

ーそして最後は、Quiroga “Chiaia Sunset”。

締めはQuirogaがいいかなと。なんとなく全体の流れは考えました。

ーこれも「高円寺バレアリック」コーナーのCDですね。

そうそう。イタリア・ナポリを拠点に活動するベテランのプロデューサーで、バレアリックをやってきた人ですよ。いるんだよね、この世代よりもっと前にも、「有名じゃなくてもすごい」というバレアリックの人たちが。Daniele Baldelliの友達だという人も、来日してたりして。

ーバレアリックは軽やかなイメージがありますが、その源流には、型破りなダウンテンポのミックスを生み出したイタリアのDJ、Daniele Baldelliがいます。

うちらがBaldelliを知ったのだって、Chee Shimizu(DJ、選曲家、レコードプロデューサー)さんたちが国内での再評価を後押しして以降のことじゃん。本人はずっと活動しているのにさ。そういう意味では、ワールドミュージックなのかなと。海外の人が、美空ひばり、小林旭、森進一などを知らないみたいにさ。そういう視点で見てみると、まだまだいろんな音楽と巡り合える可能性はあるんじゃないでしょうか。

ー音楽は希望ですね。みなさま、プレイリストをお楽しみください!


TRACKLIST

杉並児童合唱団 – うみ
フォーク・クルセイダーズ – 帰って来たヨッパライ
Steve Reich – Four Organs
Neil Young – On the Beach
Chris Rea – On the Beach
Nick & Samantha – On the Beach
Lui – Kaanapali
Polygon Window – Polygon Window
LTJ Bukem – Demons Theme
Quiroga – Chiaia Sunset


Profile

山辺圭司 | ヤマベケイジ

1967年生まれ。
幼少期は釣りに熱中。青年期より音楽に目覚め、80年代後半より六本木WAVEのバイヤーを経て、94年、西新宿に武闘派セレクト・レコード・ショップ〈ロス・アプソン〉を開店し店長を務める。ジャンルの枠に囚われないフリー・フォームな品揃えが定評。
音楽レーベル〈時空〉や〈Sexy Recordings〉、雑誌〈SPECIALOOSE〉等のリリース監修を手掛ける。
実験DJ変名の“AMEL(R)A”、ライブ・アクション変名の“ZON-SUKE”etc.等も。

IG: @yamabekeiji

Interview and text by Hanazawa Ou
Illustration by Oki Masahide