
"Shiosai RADIO" is a playlist curated by musicians and DJs, featuring songs inspired by the ocean.
vol.16は、東京のクラブ・シーンを拠点に活動するDJのZooey Loomer 1979さんが登場。トロピカルなムードをまとった選曲にも定評のある氏に、「南の島に漂流するストーリー」をテーマに楽曲をセレクトしていただきました。
南の島へ漂流し、夕暮れを迎える
ーZooey Loomer 1979さんは、これまで海とどのように接してこられましたか?
生まれ育った地元は、「海なし県(内陸県)」の岐阜県・飛騨高山です。海を見る機会が少なかったんですが、だからこそ、海への憧れは強くありました。
私、泳げないんです。足がつかない深さになると、けっこう怖くなってしまって。でも、海や川など水辺は好きで、子どものころは石川県など日本海側へ、母に連れていってもらったことを覚えています。
「見る専門」ではありますが、自分にとって海は「癒し」。楽しい思い出もたくさんあります。大人になってからも、気分転換で、たびたび友だちと海へ出かけていました。海は広大で、自分の知らないことも本当に多いんですよね。そうした未知の部分に惹きつけられますし、「海のなかで何が起きているのか?」と、あれこれ想像をふくらませてしまいます。
ープレイリスト全体を通してストーリーはありますか?
自分が泳げないこともあって、「漂流して、南の島にたどり着くとしたら?」という想像上の世界をテーマに選曲しました。最初は太陽が照りつける昼間からはじまり、次第に日が落ちていくような時間軸も意識しています。
ー1曲目は、田我流 “Intro”。
田我流さんが、愛する藤沢(神奈川県)の町にインスパイアされて制作したアルバム『藤沢 2021』の1曲目です。ジャケットにも湾の写真が使われていて、「海」といえばまずこのアルバムが思い浮かぶので、そこから選びました。
ー田我流さんは、山梨県出身ですよね。
私と同じ「海なし県」ですね。特にこの“Intro”は、アルバムの世界観を象徴するようなオープニングだったので、その構成にならって、私もこの曲から選曲をはじめてみました。
ー波の音からはじまります。ちなみに選曲のイメージでは、まだ漂流はしてないんですか?
海を目の前にして、まさにこれから漂流するところです。
ー2曲目は、Green-House “Farewell, Little Island”。
アルバム『Hinterlands』(2026年リリース)に収録されている曲です。Green-House は、静かなアンビエント作品の印象が強いと思うんですが、本作はビートが入っていて、これまで以上に親しみやすいように感じています。くぐもった音質も、自分にとっては海を想像させるものでした。
ーこの曲では、もう漂流していそうですね。
そうですね。沖へ向かって、ゆっくり流されていくイメージです。
ー3曲目は、Richard Bone “Little Orpheus”。
この人もアンビエントの作家として知られていて、ボサノヴァやエレクトロも取り入れながら、ジャンルを横断するような作品を多く手がけています。現在、私は「ODD TAPE DUPLICATION」というカセット・テープのストアで働いているんですが、この曲は店でもよく流れていました。ボサノヴァとエレクトロの要素もあいまって、開放的な海の風景が思い起こされます。
ー漂流が続いています。4曲目は、Stan Getz & João Gilberto “The Girl from Ipanema”。「イパネマの娘」という邦題でも親しまれる、ボサノヴァの名曲です。
私のなかでは、海といえば定番の1曲です。このプレイリストのストーリーでいうと、「漂流して気を失い、目を覚ましたら、助けてくれていた人がいた。その人こそが、イパネマの娘」というイメージです。ボサノヴァは、海を連想させますよね。イパネマもブラジル・リオデジャネイロ南部にある海沿いの地域ですし、この曲は外せませんでした。
ー5曲目は、Androo “Bcp De Bruit Pr Rien (Si Jav Sus)”。
クラブでは頻繁にかけないんですが、家でよく聴いているスイスの作家さんの楽曲です。ようやく南の島にたどり着いて、海を眺めつつ、自分が置かれた状況を整理していくようなイメージです。Green-Houseの選曲でもお話しましたが、このようなくぐもった音質は、海をイメージしやすいです。
ー曲中の音が、ゆっくりと沈み込むように低く変化していく展開も印象に残ります。抽象画のような世界観です。
時間とともに表情を変えていく波や海中の風景、深くもぐっていくようなムードも感じますよね。
ー6曲目はV.C.R “wake up…”。「wake up」という声がランダムなエフェクトをともなって繰り返され、次第に目が覚めていくような感覚があります。
南の島に到着したものの、漂流の余韻でフワフワしていた意識を、現実に引き戻すようなイメージで選びました。「ここから、海が鮮明に見えてくる」という効果音的な役割で1曲、差し込ませていただきました。
ー7曲目は、Art Longo “Radio Soda”。キャッチーなビートが流れてきます。
現実に戻ってきて、昼間の晴れたビーチを「海、楽しい」という気持ちで走り回っている場面が見えてくるような曲ですね。
ー8曲目は、cosmic collective “Time 4 Time”。
これもローファイな感じの曲ですけど、すこし懐かしい雰囲気があって、海に合うなと思って。
ーウキウキしたムードが続きますが、9曲目のSteven Julien “Chantel”でニュアンスが変わります。
Steven Julienはロンドンを拠点とする「Apron Records」というレーベルを主宰しているプロデューサーです。音が柔らかくて、浸透していくような質感ですね。正午を過ぎたあたりで、海もキラキラと日光を反射しているようなイメージで選びました。
ー10曲目は、Tour-Maubourg & Kareem Ali “Things”。
9曲目もそうなんですが、このあたりは、最近はまっている「Bruk」と呼ばれるものの周辺から選んでいます。イギリスのクラブ・ミュージックを軸に、ジャズやソウルが混ざり合った、リズムやハーモニーの自由度が高いダンス・ミュージックです。私はずっとベース・ミュージックばかりかけてきたんですけど、最近はハウスへの回帰というか、こういった曲も好きでよく聴いています。
ー開放的なムードで、海の家で流れていてもよさそうです。次のGil sm, Hilts & Nina Hudson “Take My Time”も「Bruk」のあたりの選曲ですか?
そうですね。それと同時に、この曲では日が落ちていく時間帯も意識しています。その次のP Waveyも「Bruk」周辺のアーティストで、“Paradise”というタイトルも、このプレイリストに合うと思って選びました。
ーちなみにその南の島は、店があったり、人がいたりするような場所ですか?
「イパネマの娘」がいるので、人は何人かいるイメージです。でも、そこまで栄えてはいないと思うんです。きれいな海があって、自然が豊かで……宮古島(沖縄県)くらいですかね?
ー静かで穏やかな場所なんですね。そこから、Santi “RX (feat. Krisirie) – 64 (The Jungle)”に行きます。
Santiはラッパーなんですが、トラックもとてもかっこいいんです。そのなかで、トロピカルかつメロウな曲を選びました。すこしずつエレクトロっぽい、現代的なR&B寄りの選曲になっていって、夕暮れへと向かいます。
ー続いて、Nick León & Casey MQ “Ocean Apart”。アルバムのジャケットも、海がモチーフになっていますね。
このアルバム『A Tropical Entropy』は、華やかなリゾート地として知られるマイアミ(アメリカ合衆国)の別の一面を書いたルポルタージュ『マイアミ 亡命ラテン・エリートのアメリカ』(ジョーン・ディディオン著/邦訳は中央公論新社刊)にインスパイアされ、制作されたそうです。このあとに出てくるErika de Casierと一緒につくった“Bikini”という曲も収録されているんですが、今回は“Bikini”ではなく、この曲を選びました。よりレイドバックした(ゆったりした)ムードがあって、夕暮れ時のような寂しさも感じたからです。
ーリラックスした流れで、ankokushinwa “baby make me wish”。
ankokushinwaさんのこの曲は、レイドバック感というか、肩の力を抜いて聴ける感じもあるんです。すこしガサついた、ラジオから流れている音のような感触で、昔っぽい懐かしさもありますよね。この質感を現代の音として表現しているのが新鮮で、強く印象に残っています。夕方の海辺を、車で移動しているようなイメージです。
ーそして、Ojerime “Give It Up 2 Me (NELSON Remix) ”。
OjerimeはR&Bのシンガーなんですが、このリミックスが特に秀逸です。途中からスクリュー (*1) になるんですけど、ここまでの高揚感を切り替えたくて選びました。「そろそろ帰る時間だぞ」と。
※1 スクリュー : アメリカ合衆国・ヒューストンのDJ Screwに由来する、ヒップホップの手法。レコードの回転数を落とし、音のスピードとピッチを下げ、音を引き伸ばす表現。
ーどんどんテンポが遅くなって、音程もグッと下がりました。
ここは、海の奥深くへもぐっていくようなイメージもあります。昔、海に入ったときに足がつかなくて、どうしようもなく沈んでいくことがあったんです。怖くもあるんですが、「こんなに深いのか」という驚きもあって……この曲は、海底を彷彿させると思って選びました。
ー深海の底。そこから救いだすような形で現れるのが、Erika de Casier “Little Bit”。
深いところから上がってくるようなイメージです。この曲には、水がはじけるような音も入っています。このプレイリストでのひとつのピークといえますね。2019年に発売されたアルバムの収録曲ですが、いまでも変わらず好きですし、リリース当時の衝撃もよく覚えています。彼女のレイドバック感は、なぜか水を感じさせます。
ーそして、Klein Zage “In the Gaze”。
Klein Zageは、Erika de Casierと近い時期にリリースをしはじめていたような記憶があります。海中から砂浜に戻って、1日あったことを振り返っているような感じでしょうか。
ーラストの曲は、Romaal Kultan “Summer Dance”。
『Seasonal Dances』という春夏秋冬の4曲が入ったEPから選んだ、夏の曲です。哀愁もありつつ軽やかなビートで、スクラッチも入るので、1曲目に選んだ田我流さんの“Intro”にもつながるところがあるかなと思いました。
ーそのまま1曲目から聴き直しても、ひと続きの景色として楽しめそうです。最後にリスナーの方へ。このプレイリストは、どのような場面で聴いてもらうのがおすすめでしょうか?
私自身、音楽を聴くのは移動中のことが多いので、このプレイリストも移動中に聴くことを想定してつくりました。海へと思いを馳せながら、ぜひドライブなどで聴いてもらえたらうれしいです。
—Everyone, please enjoy the playlist!
TRACKLIST
田我流 – Intro (From the Album “藤沢 2021”)
Green-House – Farewell, Little Island
Richard Bone – Little Orpheus
Stan Getz & João Gilberto – The Girl from Ipanema
Androo – Bcp De Bruit Pr Rien (Si Jav Sus)
V.C.R – “wake up…”
Art Longo – Radio Soda
cosmic collective – Time 4 Time
Steven Julien – Chantel
Tour-Maubourg & Kareem Ali – Things
Gil sm, Hilts & Nina Hudson – Take My Time
P Wavey – Paradise
Santi – RX (feat. Krisirie) – 64 (The Jungle)
Nick León & Casey MQ – Ocean Apart
ankokushinwa – baby make me wish
Ojerime – Give It Up 2 Me (NELSON Remix)
Erika de Casier – Little Bit
Klein Zage – In the Gaze
Romaal Kultan – Summer Dance

Profile
Zooey Loomer 1979 | ゾーイ ルーマー イチキューナナキュー
レコードショップ勤務などを経て2017年から本格的にDJをスタート。現在は「ODD TAPE DUPLICATION」にてバイヤーとして勤めるとともに、神宮前「bar bonobo」にてスタッフとして働き、毎月週末に自身をレジデントとする”Pre-98″を開催。
UKベースミュージックを中心に、オールジャンルをジェットコースターの如く織り交ぜるDJスタイルで都内を拠点に全国各地で様々なパーティーに出演。
IG: @zooeyloomer
Interview and text by Hanazawa Ou
Illustration by Oki Masahide