
ミュージシャンやDJが、海をテーマにした選曲をプレイリストとしてお届けする〈潮騒RADIO〉。
vol.19は、沖縄を拠点として活動するDJ PINさんが登場。過去にはDMCやVESTAXなどのコンペティション(DJの大会)へも出場経験を持つ、類まれなるスクラッチの鬼才にして、生粋のミュージック・ラバーとして各方面から耳目を集める存在です。ご自身の記憶を手繰り寄せながら、「海辺のドライブ」をテーマにプレイリストを制作していただきました。
沖縄の夏、海、ドライブ
ーDJ PINさんが、ドライブ好きだったとは知りませんでした。
家でレコードを聴く以外だと、ドライブしながら音楽を聴くことが多いんですよね。沖縄(本島)は、北へ行っても、南へ行っても、最終的にはグルッと回って帰ってこれるので、どこまでも行きやすいですし。
それに、沖縄だとどこに住んでいても、車を数分ほど走らせたら海が見えてくるような距離感なんです。県内でいちばん大きな幹線道路「国道58号」は、本島の西側、海沿い付近をずっと通っています。
ー海は日常にあるんですね。
中学生のころは、みんなで自転車に乗って海に行ったり、海沿いを走ったり、海を眺めたりしていました。本格的なシュノーケリングなどはしたことがありませんが、海の景色や雰囲気は好きなので、「ドライブインのレストランや海沿いの場所でDJをするなら?」というイメージをふくらませて、プレイリストをつくりました。
ーそれだけ海が近いと、音楽と紐づく記憶もたくさんありそうです。
このプレイリスト制作のオファーをいただいて、真っ先に浮かんだのが、Terry Rileyの“A Rainbow in Curved Air”でした。
ーミニマル・ミュージックの巨匠による、電子オルガンなどを用いたゆるやかなサウンドスケープが印象的な名品です。
友だちとドライブ中にこの曲を聴いていたんです。はじまってすこし経つと、「ピロリロリロリ〜」という転がるような電子音がはじまるんですが、その瞬間、林のなかの道を抜けて、ちょうど海の景色が現れるタイミングと一致したんです。
19〜20歳ころの話ですが、あのときの光景が強烈で、忘れられない記憶として残っています。ただ、この曲は20分近くあって、プレイリストに入れるには長いと思い、今回は見送りました。
ーそうした経緯もありながら、1曲目に選んだのは、Egberto Gismonti “Sol no Asfalto”。ブラジルのピアニスト/ギタリストによる、シンセサイザーを導入した楽曲です。
邦題は「アスファルトに照り返す太陽」とつけられていて、それも好きなんですよね。夏の沖縄、午前中、日が照りつけるなかで「いまから行くぜ」という感じがまさにこの曲。ドライブがはじまるイメージで選びました。
ー2曲目は、Dennis Bovell “Dub Games (feat. Janet Kay)”。UKレゲエの名曲“Silly Games”のダブ・バージョンです。
この曲は、うちの奥さんの影響ですね。知り合ったころに、“Silly Games”が入っているアルバムを聴かせてもらったんです。すごくたくさん、いろんな思い出がありますね。
ー3曲目は、Ronny Jordan “After Hours (The Antidote)”。1992年発表、クラブ・カルチャーとも深く結びついたジャズの楽曲です。
この曲も、うちの奥さんに教えてもらいました。ドライブのときに聴かせてもらっていたんですが、車で聴くと本当に気持ちいいんですよ。時間でいうと昼ごろ、晴れわたっているイメージで……。
ーしかし、次の曲で雨が降ります。Keith Sweat “In the Rain”。
そうなんです。沖縄では、どんなに晴れていても突然、雨が降るので。この曲は、雨が降るなか、冷房の効いた車のなかで聴くと、グッと入り込めるんですよね。10代のころからずっと好きな曲です。The Dramaticsが1972年に発表した曲のカバーで、原曲はヒップホップの楽曲でもたびたび「サンプリング(引用)」されてきたことでも知られています。
ー5曲目は、Carl Stone “Umi”。中京大学工学部メディア工学科の名誉教授であり、コンピューター・ミュージックのパイオニアでもある氏が手がけた楽曲です。
「海を意味していなくても、海を感じさせる音楽はないか」と、家でたまたま目についたレコードを聴いていたんです。サーフィンをする人が波のトンネルをくぐるようなシーンが想像できて、レコードの盤も透明なクリア・ブルーで、その向こう側に透けて見える感じも、海っぽかったんですよ。それで、曲名を見てみたら“Umi”だったので、とても驚きました。
ー次は、Luiz Carlos Vinhas “Tanganica”。ブラジル出身のピアニストによる、トロピカルな趣きの1968年リリースの楽曲です。
「エキゾチカ」と呼ばれるような音楽への興味が、最近、再燃していて、好きなアルバムに収録されている曲を選びました。海鳥というか、鳥の鳴き声も入っていますし。
ー曲の最後に、どんどんテンポが速くなって高まりきって終わる、という構成も、大波を眺めているような感興がありつつ、DJ PINさんのプレイを見ているような躍動感を覚えました。
あそこも大好きなところです。なんというか、すごくいいですよね。
ー7曲目は、Burt Blanca & The King Creoles “Taboo ’69″。1969年にリリースされた、サーフ的なギターやドロドロに溶かしたような音像が印象的な楽曲です。
この曲は、東京のレーベル「ARRROUND Wicked Sound Maker」を主宰するNOOLIOさん(DJ)がミックス作品で選曲していたのを聴いて知ったんです。まず、そもそも“Taboo”がすごく好きなんですよ。
ー“Taboo”はキューバの作曲家Margarita Lecuonaによるラテン・ナンバーで、数多くのミュージシャンにカバーされており、この曲もそのひとつなんですね。
グニャグニャしたサイケデリックな感触がすごくよくて、聴いてすぐにNOOLIOさんに「この曲はレコードで出てるんですか?」と連絡したら、再発されたばかりなので、まだ探せばあるのではないかということで、方々を探してようやく入手できました。
ー8曲目、Hermeto Pascoal “Sereiarei”。ブラジルの型破りな作曲家による、ビッグバンド編成の楽曲です。
Hermeto Pascoalのなかでも、いちばん好きな曲です。DJでもセットの後半でよくかけて、自分で昇天することが多いんですけど、バリバリのダンスフロアな場所でも、ほかの曲を混ぜてかけたりしてて。
“Sereiarei”という曲名も、「人魚の王」を意味しているようなんです。曲の構成も大航海するようなカオスさがありながら、最後のほうにビートが入ってきたりもして……全部好きですね。
ーそこから9曲目は、DIAMANTES “OKINAWA MI AMOR”。1991年に沖縄で結成されたラテン・バンドの楽曲です。
中学生のころ、NHKのローカルなテレビ番組で流れていた曲です。近所のホームセンターで見て「すごくいいな」と思っていたものの、そのときはDIAMNTESの存在もよく知らないままでした。たしかデビュー前だったんじゃないかな? そのあと、親戚のおじさんから「おまえ、音楽好きなんだろ」と、もらったCDに入っていた曲です。友だちと自転車で海に行っていたときにも、この曲をこっそり、ひとりイヤホンで聴いたりしていました。
ー続いて、Aguanilé & Proyecto A “Me Vas a Extrañar”。しびれるほど、いい曲ですね。
ものすごく感動したんですよ。yudayajazzさん(DJ)によるサルサのミックス作品に入っていたのを聴いて知って、「この曲、誰ですか?」と、またすぐメールして。別のアーティストが同曲を歌っているものもあったんですけど、このバージョンがいちばん好きです。そして、DIAMANTESからのサルサつながりでもあって。
ーこの選曲、ほんと「泣き」です。
本当にものすごい曲ですよね。yudayajazzさんに教えてもらったんですけど、こういう機会に紹介できてよかったです。
ーそして、Wolfgang Dauner Trio “Golden Green”。1970年に発表された実験要素の強いジャズの楽曲で、琉球音階を思わせるフレーズが印象に残ります。
この曲は、今年の6月に「ニューマタンゴ」(東京・幡ヶ谷)でDJをさせてもらったときに、ピアニストのCanamyさんに教えてもらって、その場でApple Musicを開いて聴いたら、はじまって3秒くらいで泣きそうになっちゃって。
もともと、マッピー(沖縄出身のアーティスト/サウンド・エンジニア、大城真の通称)と、「沖縄ルーツではない音楽なのに、沖縄を感じるもの」を見つけてはキャッキャして喜んでいたんですが、この曲もまさにそうで。こういうものを「かりゆし感」と呼んでるんですけど。
ー「かりゆし感」ですか?
「かりゆし」は「めでたい」という意味の沖縄の言葉です。その日は、イベントももちろんとても楽しかったんですが、この曲のことで頭がいっぱいになっちゃって。
ーありますよねえ、そういうこと。
絶対にレコードで欲しいと思って……マッピーに教えたら、「ここまで狙ったような、かりゆし感ってある?」って。Canamyさんには「本当にありがとう。今年出会った曲でいちばんうれしいかも」って伝えました。
ー12曲目は、Microstoria “Endless Summer NAMM” (Violent Onsen Geisha Remix)。エレクトロニカの美しい原曲を、作家/ミュージシャンの中原昌也が「暴力温泉芸者」名義でリミックスしたものです。
Microstoriaは好きで聴いていたんですが、このリミックスは最近まで知らなくて、数か月前にレコードで出会ったものです。タイトルも“Endless Summer”で、曲の内容としても海のイメージができるものだったので、アクセントとして入れました。
宜野湾にある薄暗いレストラン
ーLes Paul & Mary Ford “I’m Confessin’ (That I Love You)”。アメリカの夫婦デュオによる、1952年リリースのやわらかな楽曲です。
この曲も、人の影響なんです。名古屋にあるDJバー「Kalakuta DISCO」のオーナー、Tsuyoshi Watanabeさんによるミックス作品の1曲目がLes Paulの曲で、それがとてもかっこよくて。ギターのモデルとしての「Les Paul」は知っていたものの、(ギターをつくった)Les Paulという人の存在も、彼がミュージシャンであることも知らなかったんです。以降、レコードを中古で見かけるたびに、ちょくちょく買っていて、すごく好きなアルバムに入っている曲です。鳴りが全体的に、どこかくぐもっているような感じもあって、自分が思う海のイメージに近いので、選ばせていただきました。
ー続けて、Henry Mancini “Return To Paradise”。エキゾチックな楽曲です。
このあたりからは、印象的な幼少期の記憶があって……沖縄に、地元の人たちは「サムズ」と呼んでいる、「サムズアンカーイン」というレストランがあるんです。その店内が、船内を模した内装になっているんですね。窓も丸型で、船のイカリが飾ってあって。テーブルに鉄板があって、シェフが目の前で料理してくれるんです。
県内にいくつか店舗があって、宜野湾にある1号店に、小学校に入りたてくらいのとき、お祝いで家族に連れてってもらったのが、初めての「サムズ」だったと思います。お店のなかが薄暗くて、すこし怖い雰囲気でもあって、トロピカルなフルーツのジュースを頼んだら、ドクロの頭蓋骨のグラスで出てきたりもして。そこで流れている音楽にも、惹きつけられていたんですよ。
ーどのような音楽ですか?
それがまさに、ここで選んでいる「エキゾ」といわれるような音楽なんです。その当時は「エキゾ」という呼び方も知らなかったんですが、DJをはじめたりして、Martin Dennyなどの「エキゾ」の名盤とされるレコードを聴いたときに、「サムズだ!」って。
ー「エキゾ」をものすごく簡単にいうと、そもそもは、欧米の人が仮想の楽園を音楽で描いたものだとされていますよね。
南の国の音楽で、楽しそうだけど、ちょっと怖くてミステリアスで……Matrin Dennyのレコードにも入っているような、鳥がギャーギャー鳴く声も記憶に残っていたんです。
ここで選んだHenry Manciniも、その次のBranko Mataja “Tesko Mi Je Zaboravit Tebe”も、完全に「サムズ」のイメージですね。
ー先ほども話に出ましたが、「エキゾ」への興味が再燃しているんですか?
音楽の原体験というか、ちいさなころの記憶を引きずって、そういう曲に反応してしまう感じですね。エキゾな音楽に詳しいDJの方もたくさんいますし、そうした先人たちの影響も受けて、ここ数年、エキゾのレコードを聴き込むなかで、いっそう沼にハマっていって。自分のなかでは「サムズ」のイメージがあるまま、やっとたどり着いた感じです。いま改めて、すごく好きなジャンルですね。
ーそうした流れのなかで、饒辺愛子 “なんた浜”。
ここ10年ほど、沖縄の民謡のレコードを集めていて、せっかくなので、海にまつわるものを1曲入れようと思ったんです。
“なんた浜”は、民謡に関心を持つずっと前から、耳なじみのある曲なんですよ。深夜、テレビがその日の放送を終えると、信号音に切り替わると思うんですが、沖縄のローカル局では、終わりを告げるアナウンスとともに、“なんた浜”のインスト・バージョンがBGMとして流れていたんです。でも、そのバージョンが、いまも録音物として音源が残っているかは確認できてなくて、自分にとっては幻のようでもあるんです。RBC(琉球放送)にも電話で問い合わせたんですが、いまだにわかっていなくて。
ーそれは、どのような “なんた浜”だったんですか?
それこそ、本当にMartin Dennyのようなビブラフォン(鉄琴)が、古ぼけた音質で入っていて。近い雰囲気なのが、その次に選んだArthur Lyman “See Breeze”。“なんた浜”が、“See Breeze”のように鳴っているとイメージしてもらえたらと。
ーエキゾを経由して、最後はSega “Last Wave (Out Run)”。ゲーム「アウトラン」のサウンドトラックからの選曲です。
ゲームとはあまり縁がなかったんですが、中学生のころ、友だちがセガの「メガドライブ」をうちに持ってきたんです。夏休みは、自転車で海に行って帰ってきて、うちでゲームをするルーティンができて、そのときに「アウトラン」を知ったんですね。
このゲームの音楽がまたよくて……みんな海から帰ってきて、ひととおりゲームで遊んで、疲れて眠っているなか、自分は「アウトラン」のBGMだけが流れる場面を、ひたすらループして聴いていた思い出があります。 “Last Wave”は、夏の海の記憶として重要な曲なんですよね。
ーいま気づいたんですが、「アウトラン」はドライブのゲームですよね?
まさに、なんですよ。自分の好きな、沖縄の夏、海、ドライブ、というイメージです。沖縄の海はビビッドな青が強くて、砂が白いのも特徴かなと思って、それをストレートに表現できたかなって思います。
—Everyone, please enjoy the playlist!
TRACKLIST
Egberto Gismonti – Sol no Asfalto
Dennis Bovell – Dub Games (feat. Janet Kay)
Ronny Jordan – After Hours (The Antidote)
Keith Sweat – In the Rain
Carl Stone – Umi
Luiz Carlos Vinhas – Tanganica
Burt Blanca & The King Creoles – Taboo ’69
Hermeto Pascoal – Sereiarei
DIAMANTES – OKINAWA MI AMOR
Aguanilé & Proyecto A – Me Vas a Extrañar
Wolfgang Dauner Trio – Golden Green
Microstoria – Endless Summer NAMM (Violent Onsen Geisha Remix)
Les Paul & Mary Ford – I’m Confessin’ (That I Love You)
Henry Mancini – Return To Paradise
Branko Mataja – Tesko Mi Je Zaboravit Tebe
饒辺愛子 – なんた浜
Arthur Lyman – See Breeze
Earl Grant – Ebb Tide
Sega – Last Wave (Out Run)

Profile
DJ PIN | ディージェー ピン
沖縄出身。1994年からバトルDJとして活動スタート。過去にはDMCやVESTAXなど数多くのコンペティションにも出場経験を持つ。フリージャズ、ダブ、サイケロック、電子音楽などをヒップホップのメンタリティー/ターンテーブリズムをキープしたプレイスタイルを持ち、即興演奏家たちとのセッションも積極的に行う。閃きを瞬時に音に反映させるライブ性に溢れたプレイは、沖縄クラブシーンと即興音楽シーンの両方から高い評価を得ている。
IG: @pin.ishimine
Interview and text by Hanazawa Ou
Illustration by Oki Masahide